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『Twelve Minutes』ゲームならではの映画的サスペンス・スリラーは成功したか【インディーゲームレビュー 第111回】

アパートの一室を舞台に、3人のキャラクターがおりなす「死に戻り」の物語『Twelve Minutes』。12分間のタイムループに囚われてしまった主人公をめぐるサスペンス・スリラーは、ノベルゲームの新境地を開拓できたのだろうか。


ゲームに特有の「死に戻り」をうまく生かすために


本連載で何度も取り上げてきたように、ゲームはプレイヤーに擬似的な死を強制するメディアだ。

あるゲームプレイで主人公が死んでも、プレイヤーはそれまでに得た知識や経験を生かして、次のゲームプレイに挑むことができる。時にはこの「死に戻り」の構造を生かして、ユニークな物語体験をデザイン可能だ。詳細は1分で死んでしまうアクションRPG『Minit』や、親族の死を追体験していくアドベンチャーゲーム『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』のレビューを参考にしてほしい。

このように、ゲームにおける主人公とは、プレイヤーがゲーム内で行動するための仮想身体であり、ユーザーインターフェースだと見なせる。そのため、プレイヤーと主人公は一心同体であることが望ましい。とはいえ、現実と違ってゲームでは決められた行動しか取ることができず、感情の齟齬がうまれてしまう。そこでよく用いられるのが、特殊な状況を設定して、プレイヤーが取り得る選択を限定してしまうことだ。『公衆電話』のレビューが参考になるだろう。


ハリウッドの有名スターが声優として参加


今回レビューする『Twelve Minutes』も、これらの系譜に連なるタイトルだ。

主人公はタイムループに囚われてしまった男性で、アパートに帰宅し、妻とロマンチックな会話を楽しんでいると、刑事が突然部屋に押し入ってきて、妻を殺人犯として逮捕しようとする。抵抗しようとした主人公は殺されてしまい……と思いきや、時間が巻き戻されて主人公は帰宅直後の状態に。プレイヤーはこの悪夢の12分間を何度も繰り返しながら、タイムループから抜け出す術を探し出していくという設定だ。

本作の特徴の一つは、その豪華な声優陣だ。映画『X-MEN』シリーズのジェームズ・マカヴォイ、『スター・ウォーズ』シリーズのデイジー・リドリー、『スパイダーマン』シリーズのウィレム・デフォーと、ハリウッドスターが顔をそろえている。トップビューのゲーム画面や、ポイント&クリックのゲームシステムもシンプルで、とっつきやすい。独特な画面の色味もあいまって、Steamの販売ページにあるとおり、映画『シャイニング』『裏窓』『メメント』などの雰囲気をうまく醸し出している。

本作のもう一つの特徴は、自然なキャラクターのモーションだ。

主人公がアパートに帰宅すると、妻が出迎えてくれる。この時、主人公がどこにいても自然に妻が近寄ってきて、ハグとキスをしてくれる点に注目してほしい。刑事が侵入してきて、2人を床に這いつくばらせるシーンも秀逸だ。

その一方で、画面が常にトップビューで表示されるため、キャラクターの細かい表情が描かれることはない。力を入れるところのメリハリがはっきりしていて、実にインディーゲームらしいタイトルだ。

選択肢の自然な提示方法についても触れておこう。本作は一般的なノベルゲームのように、ストーリーが選択肢で分岐していく。もっとも、ゲーム中に登場するのは明示的な選択肢だけではない。携帯電話を入手すると、911(日本の110番)に電話したり、着信履歴から第三者に電話をかけたりできる。バスルームの排水口を外す際、ドアを開けておくのと閉めておくのとでは、妻の反応が変わってくる。こうした日常的な動作でストーリーが分岐していく点は、本作ならではだろう。



ゲームの難易度とターゲット層は適切だったか


もっとも、手がかりの提示方法とフラグ管理が適切か否かについては、疑問も残る。

前述の通り本作は、プレイヤーが何も行動しなければ、開始5分前後で刑事が侵入してきて、なかば自動的に殺害され、「死に戻り」が発生する。そのため、妻との会話やちょっとした変化から手がかりを集めて、適切な行動や選択をする必要がある。しかし、筆者には大半の手がかりが認識できず、ほとんど先に進められなかった。最初から最後まで、ガッツリと攻略サイトのお世話にならざるを得なかった。

ポイントは、選択肢を選ぶ上で、前後の文脈が影響してくる点だ。これが『Minit』のようなアクションRPGなら、目の前の敵を倒し、パズルを解くことに集中できる。『公衆電話』はより極端で、プレイヤーにできることは電話のダイアルを回すだけだ。

これに対して本作では、なまじ行動の自由度があるだけに、間違った選択や、意味のない選択をしてしまう可能性が高くなっている。既読メッセージのスキップ機能も中途半端なため、後半になるにつれてストレスが高まった。

もちろん、これは筆者の感想であり、中にはサクサクとクリアできた人もいるだろう。しかし、本作が主要ターゲットとしているインタラクティブ・スリラーを好むようなユーザーには、どうだろうか。本作の骨格をほぼ1人で作り上げたルイス・アントニオ氏はインタビューで、「ゲームをよりスムーズに進められるようにするため、リリース後に修正を行った」と語っている。これは正しい判断だろう。消化不良のまま投げ出してしまうには、本作のストーリーは魅力的すぎるからだ。


昨今のインディーゲームではしばしば、単純なハッピーエンドに留まらない、より複雑な感情をプレイヤーに提供するものが増えてきた。本作もまた、その系譜に連なるタイトルだ。そのためには、想定されるプレイヤー層に対して適切な「モヤモヤ感」を提示する一方で、不必要なストレスを与えることは避けなければいけない。

本作はこの点で改善の余地があるように感じられる。そうすることで、豪華な声優陣や映画的な演出が、より引き立つのではないだろうか。

metacriticスコア:76点
主な受賞歴:The Game Awards Best Independent Gameノミネート、Golden Joystick Awards Best Storytelling & Xbox Game of the Yearノミネートなど

Steam『Twelve Minutes』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1097200/Twelve_Minutes/
『Twelve Minutes』公式サイト
https://annapurnainteractive.com/games/12-minutes
インタビュー「Twelve Minutes interview: Luis Antonio talks design choices, development, and more」
https://www.pcinvasion.com/twelve-minutes-interview-development-design-choices/
Steam『Minit』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/609490/Minit/?l=japanese
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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