Gamers Zone

move to login

GAME PCゲームで勝ち抜くための情報満載!

『To the Core』が示す、学生が学ぶべきゲーム開発スキルのトレンド【インディーゲームレビュー 第37回】

3DCGの進化に伴い、学生が学ぶべきゲーム開発ツールも急速に変化している。オランダのNHTVブレダ応用科学大学の学生約60名が開発した3Dアクションゲーム『To the Core』もまた、最新ツールのショウケースとでもいうべきタイトルだった。


学生が学ぶべき開発ツールとは何か?

世界初といわれるゲームクリエイター養成学校、ヒューマンクリエイティブスクールが1990年、東京・吉祥寺に開校してから約30年。今では全世界でゲーム開発者教育が花盛りだ。そこで教えられるカリキュラムやツールも、2Dから3D、そしてオンラインゲームといった、ゲーム業界の技術トレンドにあわせて急速に変化してきた。ゲームエンジンのUnityを筆頭に、プロとアマチュアのツール格差もなくなってきている。

こうした中、最新のゲーム開発ツールをふんだんに使用して制作されたタイトルが『To the Core』だ。オランダのNHTVブレダ応用科学大学の学生が開発した3Dアクションゲームで、ゲームエンジンにUnreal Engine 4を採用。マップ制作にもプロシージャルCGツールのHoudiniを採用するなど、最新の技術トレンドが押さえられている。モバイル中心の日本のゲーム開発シーンよりも、先んじている部分があるほどだ。


アクションゲームではなくタイムアタックゲーム

もっとも、ツールの先進性に比べると、ゲーム内容はややオーソドックスだ。ゲームの目的は、右手にロボットアームを装着し、ジェットパックで立体的なステージを駆け回る少女エミリーを操作して、敵対するロボットでいっぱいの建造物の中を突き進むこと。操作方法はジャンプとパンチを中心に、シンプルにまとめられている。首尾良くゴールに到着すれば、ロボットに拉致された発明家の父親を救出でき、ゲームクリアだ。パワーアップアイテムにより、ジャンプやダッシュの性能を強化することもできる。

本作のポイントは、クリアまでのタイムを競うレースゲームだという点だ。実際、腕に覚えがあるプレイヤーなら、敵ロボットを破壊せずに進むこともできる(当然、そのほうがクリアタイムは上がる)。ステージの長さは10分程度で、オンライン・リーダーボードでクリアタイムを競うこともできる。これに華を添えているのが、プレイするたびにステージの内容が変化する機能だ。ガラッと印象が変わるほどではないが、タイムアタックにアクセントを与えてくれるのは確かだろう。



他に類を見ない大規模な学生作品

本作のもう一つの特徴は、合計62名からなる開発チームだ。スタッフロールによると、開発スタッフはクライアントチームとサポートチームに分かれており、クライアントチームは45名(中核チーム5名、ゲームデザインチーム12名、アートチーム14名、プログラマーチーム11名、オーディオ3名)、サポートチームが17名(モーションキャプチャーチーム6名、コンセプトアートチーム8名、Houdiniチーム3名)となっている。他にスペシャルサンクスとして13名の名前があり、教職員だと思われる。

通常、学生によるゲーム開発は6~10名程度で(これは日本も海外も同様だ)、60名以上からなるチーム編成は他に例がない。一般的にゲーム開発の難度は(クオリティを別にすれば)プログラマー1人で作るのがもっとも低く、メンバーが増えれば増えるほど増大する。進捗管理のスキルが求められるからだ。チームメンバーの役職についても、テクニカルレベルデザイナーやテクニカルコンバットデザイナーなど、日本では耳慣れないものが多く、さらなる分業化が進んでいることをうかがわせる。



学校がパブリッシャーになるという新しい動き

最後に補足しておきたいのが、本作は大学がパブリッシャーになって、Steam上でリリースされたタイトルだということだ。無料ゲームという点もあって、大学の宣伝に大いに貢献したと思われる。同様の動きは世界中で広がっており、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)が立ち上げたGame Labはその最右翼だ。画面分割によるスタイリッシュな対戦アクション『Chambara』は、同校の学生が中心になって立ち上げたインディゲームスタジオ、team ok LLCによるもので、全世界で高い評価を得ている。


残念ながら日本ではまだ、大学や専門学校が主体となってゲームをパブリッシングする動きは見られない。成果物の著作権に関する取り決めや、サポート体制など、さまざまな課題があると思われるが、学内ベンチャーの取り組み自体はさまざまな分野で進んでいる。学生が優秀なゲームを作り、全世界に発信することで自らが広告塔となり、学校側がそのための環境を整備する。少子高齢社会が進む中、学校が生き残るための必須条件だと言えるのではないだろうか。

■関連サイト
Steam『To the Core』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/874030/To_the_Core/
NHTVブレダ応用科学大学
https://www.buas.nl/
UCLA Game Lab
http://games.ucla.edu/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

WRITER RANKING プロゲーマーやゲーム業界人などの人気ライターランキング