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『喰人記』富山のゲーム開発者コミュニティから生まれた新世代ノベルゲーム 【インディーゲームレビュー 第100回】

富山県魚津市のゲーム産業育成策「つくるUOZUプロジェクト」。そこから誕生したノベルゲームが『喰人記』だ。コミュニティによって支えられ、コミュニティによって生まれた本作は、ゲーム産業育成の可能性を示している。


おかげさまで本連載も100回目を迎えた。読者の皆様と関係者には改めて厚く御礼を申しあげたい。連載スタートが2016年12月で、そこから4年半が経過したことになる。あらためて振り返ると、最大の変化が国産インディーゲームの興隆だろう。実際、本連載でも国産タイトルのレビューが増加してきた。取り上げる価値のあるゲームを選んできた結果、自然とそうなってきたのだ。今回レビューするノベルゲーム『喰人記』もその1つで、偶然とはいえ100回目のタイトルになったことに驚いている。

最大の特徴は、富山県魚津市という地方都市が進めるゲーム開発者育成・支援プロジェクトを苗床として生まれてきた点だ。魚津市では2017年度より「つくるUOZUプロジェクト」と銘打ち、さまざまなゲーム開発者向けイベントを実施している。2021年1月には村椿晃市長がみずからYoutubeに登場し、「魚津市をゲームのまちにします!」と宣言したほどだ。こうした活動の中からリリースされた本作は、まさにコミュニティによって揉まれ、生み出されたタイトルだと言えるだろう。


人を食べると記憶が得られる

本作の主人公は青年の姿をした人喰いの怪物と、この世から消えたいと願う、死にたがりの少女だ。

怪物は人間を補食しなければ飢えて死んでしまい、少女は誰にも知られずにこの世から消え去りたいと願っている。両者の利害は一致しているように思われるが、それを阻むものが青年の自我だ。青年は人間を捕食すると、相手の記憶や感情を取り込める。それによって青年は悩み、傷つき、アイデンティティがゆらいでいく。もっとも、そこには相応の理由があり、ゲームの進行と共に、徐々に明らかになっていく。この謎解きが魅力の1つになっている。

本作のエンディングはトゥルーエンドを含めると5つだ。分岐構造はそれほど複雑ではなく、パズル性も抑えられているため、多くのプレイヤーが周回ごとに新たなエンディングを迎えられるだろう。本連載ではこれまで、ゲームという表現形式が必然的に抱える「クリアできないプレイヤーが生まれる問題」について取り上げてきた。ノベルゲームはこの問題を解決し得る、現実的な解法の1つだ。過去にもさまざまな方法論が登場してきたし、今後も新しい発明が期待できるだろう。


伏線としての選択肢という発明

本作はまた、ノベルゲームにおいて新しい発明とも言うべきメカニクスを提示している。それが「伏線としての選択肢」だ。本作で青年は会話を通して警戒度を下げることで、相手を一種の瞑想状態に陥れることができる。残り時間内に正しい選択肢を選ぶと瞑想状態が完成し、相手を補食できるのだ。とはいえ、選択肢は「【楽】冗談を言う」「【悲】真面目に答える」「同情する」「黙ってうなずく」のみで、具体的なセリフも表示されない。何を選べば正解なのか、わかりにくいのだ。

もっとも、2周目以降になると話は変わる。ストーリーの合間に補食対象の人物を主人公としたサブストーリーが展開されるのだ。そのうえで相手との会話シーンへと進む。これにより相手のセリフの意味が理解できるようになる。相手の人生を踏まえたうえで、どの選択肢を選ぶべきかが、わかってくるようになるのだ。本連載で何度も論じたように、ゲームの特徴はループ構造にある。その仕組みをうまく生かしたやり方で、ゲームならではのストーリーテリングだと言えるだろう。



主人公の交替とキャラクターアーク

本作の特徴はもう1つある。周回プレイを通して、主人公が人喰いの青年から死にたがりの少女へと、徐々に変わっていく点だ。そのうえで、周回プレイを繰り返しながら、少女の精神的な成長(キャラクターアーク)が徐々に描かれていく。この構成の巧みさに驚かされた。

ハリウッドの三幕構成ではキャラクターアークを「主人公は○○のために✕✕を行うが、それはかなわず、かわりに△△を得る」といった形で記述する。本作で言えば「少女は誰にも知られずに死ぬことを望むが、それはかなわず、かわりに△△を得る」といった具合だ。これがしっかりしているので、全エンディングを制覇しようという気になれた(なお、ルートによって結末や詳細は異なる)。

もっとも、ノベルゲームは映画・マンガ・小説などと違って、「あとどれくらいで終わるのか」がわかりにくい。映画なら上映時間、マンガや小説なら残りページ数で、だいたいの展開が予想できるし、だからこそ楽しめる点がある(予想が良い意味で裏切られるなど)。ところがノベルゲームでは、このテクニックが使えない。そのため、人によっては予想に反してダラダラと続いてしまい、気持ちが冷めてしまう……といったことが起こりえる。物語ゲーム全般に共通する課題だ。

本作で言えばエンディングEのエピローグがそれだ。作り手側のファンサービスだと思われるが、筆者にとっては蛇足のようにも感じられた(手紙のシーンで終わった方が余韻が感じられて良かった)。もっとも、受け取り方はプレイヤーによって異なるだろう。重要な点は最後までプレイさせるだけの力が本作にはあった、という点だ。あとは読者諸兄が実際に遊んで確かめて欲しい。

metacriticスコア:なし
主な受賞歴:なし

Steam『喰人記』販売サイト
https://store.steampowered.com/app/1461090/_/?l=japanese
『喰人記』公式サイト
https://sukoyaka.vercel.app/syokujinki/
『喰人記』体験版
https://unityroom.com/games/shokujinki
つくるUOZUプロジェクト
https://detail.uozugame.com/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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