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『ボクロボ ~Boxed Cell Robot Armies~』インディーゲームにおける「間口の広さと奥の深さ」問題【インディーゲームレビュー 第122回】
「間口が広く奥が浅いゲーム」と、「間口が狭く奥が深い」ゲームは、どちらが優れているだろうか。答えはプレイヤーの数だけ存在する。大学3年生の個人ゲーム開発者が制作した『ボクロボ ~Boxed Cell Robot Armies~』もまた、この古くて新しい命題をプレイヤーにつきつけている。
任天堂の社長をつとめた故・岩田聡氏はゲーム作りの哲学について、しばしば「間口が広くて奥も深い」という言葉で表現した。実際、マリオやゼルダを筆頭に、同社のゲームはみな「間口が広くて奥も深い」ことで知られている。そして任天堂に限らず、今やAAAゲームはみな、この両立が求められている。初心者から上級者まで楽しませつつ、DLC(ダウンロードコンテンツ)で収益を得なければ、採算が取れなくなっているからだ。
ただし、実際にこれを実現するためには、おそろしくコストがかかる。奥の深いゲームを作る手間もさることながら、ゲームの間口を広げることにも、見えないコストがかかるからだ。優れたチュートリアルの実装はその一つで、プレイヤーのやる気を引き出し、自然にルールを学習させて、プレイにハマらせるために、多くのゲーム開発者が苦心をしている。
一方でこうした努力と無縁の世界にいるのがインディーゲームだ。開発費が相対的に低いため、プレイヤーのターゲットを絞り込める。元からそのジャンルやテーマに興味があるプレイヤーなら、多少わかりにくい点があっても、何度もゲームをやり直しながら遊び方を学んでくれる。そうしたプレイヤーとゲーム開発者の距離の近さこそが、インディーゲームの大きな魅力かもしれない。
今回レビューするSteamで配信中の『ボクロボ ~Boxed Cell Robot Armies~』も、「間口が狭くて奥が深い」、インディーゲームらしいタイトルだ。ゲームはきわめてシンプルだが、先に進むためにはゲームのルールを深く理解する必要がある。そして、そのための情報がわかりにくいのだ。その一方で、一度ルールが理解できればスルメのように遊び込める、ユニークなゲームになっている。
ゲームの目的は、ボクセル(Volume(体積)とPixel(ピクセル)を組み合わせた言葉)で表現されたロボット「ボクロボ」をステージ上に配置して戦わせ、敵のボクロボを撃破することだ。ボクロボには近接攻撃タイプ、遠距離攻撃タイプ、支援タイプなどの特性があり、バトルごとにチームを編成して戦っていく。戦闘はAIによって自動制御されるオートバトル形式(オートチェス形式とも)で、勝利をおさめるうえでチーム編成と初期配置が極めて重要になっている。
また、ボクロボは「コア」と「ボディ」から構成されており、バトルによってボディが破損していくため、定期的にボディを乗り換える必要がある。この時、選んだボディによってコアが異なる成長をとげるため、ボクロボにある程度の個性を持たせることができる。戦闘中、唯一プレイヤーが介入できる「オーバークロック」を使えば、ボディにダメージを受ける代わりに特殊能力を発動させることができ、戦局を大きく変化させることも可能だ。
このように本作の肝は、何度もオートバトルを繰り返しながら、ボクロボの編成・配置・成長の最適解を見つけ出していくことにある。そして、このおもしろさに気づくか否かが、本作が楽しいと思えるか否かの分かれ目になっている。最初からこの手のゲームにハマれる人であれば、何十時間でも楽しく遊び込めるだろう。しかし、そうでない人の方が圧倒的に多いであろうことも、また事実だと思われる。
まず、敵と味方のボクロボのデザインが同じなので、パッと見て見分けがつきにくい。一応、暖色系と寒色系でタイルの色分けがなされているが、視認性が良いとは言えない。他にも編成画面で一度ボクロボを選ぶと変更できない、バトルのリワードで獲得できるボクロボを選ぶとき、編成の状況が確認できないなど、UI/UX的な不備が目立つ。これらを改善していくことで、遊びやすさが向上するだろう。
他にストーリー要素も存在するが、思わせぶりな内容が多く、ボリュームも少ないため、プレイヤーの動機づけにあまり貢献していない。アリの巣穴を観察するような無機的な世界観も、そうしたゲームが好きな人なら楽しめるだろうが、あまり一般的とはいえない。コアとボディではなく、パイロットと機体にした方が、よりキャラクター性が出るし、ストーリーにも絡めやすいと思われる。
バトルの切り札である「オーバークロック」も使いどころが難しく、ゲームシステムに馴染んでいないように思われる。オーバークロックの効果を強調するなら、現状のような完全自動ではなく、マウスをクリックするたびに動作するターン制にするのも一案だろう。しかし、そうすると画面のワチャワチャ感が薄れてしまうのも事実。いずれにせよ、もう一工夫あっても良かったのではないだろうか。
もっとも、こうした改良を続けていくと、工数がどんどん膨らむ一方で、尖った要素がなくなってしまう。むしろ本作はそうしたゲームとは真逆の位置にいるからこそ、作品としても商品としても価値があるといえるだろう。
なにより本作を開発したまっともぉん氏が、本稿執筆時点で大学3年生という点に驚かされる。今後も大手ゲームとは異なる、尖ったゲーム作りが続くことを期待している。
主な受賞歴:なし
Metacriticスコア:なし
Steam『ボクロボ ~Boxed Cell Robot Armies~』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1881840/_Boxed_Cell_Robot_Armies/?l=japanese
任天堂の岩田社長、ゲームビジネスの今後に警鐘を鳴らす - CNET Japan
https://japan.cnet.com/article/20061113/
まっともぉん氏(作者)Twitter
https://mobile.twitter.com/matsu_friends
間口が広いゲームを作る難しさ
任天堂の社長をつとめた故・岩田聡氏はゲーム作りの哲学について、しばしば「間口が広くて奥も深い」という言葉で表現した。実際、マリオやゼルダを筆頭に、同社のゲームはみな「間口が広くて奥も深い」ことで知られている。そして任天堂に限らず、今やAAAゲームはみな、この両立が求められている。初心者から上級者まで楽しませつつ、DLC(ダウンロードコンテンツ)で収益を得なければ、採算が取れなくなっているからだ。
ただし、実際にこれを実現するためには、おそろしくコストがかかる。奥の深いゲームを作る手間もさることながら、ゲームの間口を広げることにも、見えないコストがかかるからだ。優れたチュートリアルの実装はその一つで、プレイヤーのやる気を引き出し、自然にルールを学習させて、プレイにハマらせるために、多くのゲーム開発者が苦心をしている。
一方でこうした努力と無縁の世界にいるのがインディーゲームだ。開発費が相対的に低いため、プレイヤーのターゲットを絞り込める。元からそのジャンルやテーマに興味があるプレイヤーなら、多少わかりにくい点があっても、何度もゲームをやり直しながら遊び方を学んでくれる。そうしたプレイヤーとゲーム開発者の距離の近さこそが、インディーゲームの大きな魅力かもしれない。
おもしろさに気づけるか否かが評価を決める
今回レビューするSteamで配信中の『ボクロボ ~Boxed Cell Robot Armies~』も、「間口が狭くて奥が深い」、インディーゲームらしいタイトルだ。ゲームはきわめてシンプルだが、先に進むためにはゲームのルールを深く理解する必要がある。そして、そのための情報がわかりにくいのだ。その一方で、一度ルールが理解できればスルメのように遊び込める、ユニークなゲームになっている。
ゲームの目的は、ボクセル(Volume(体積)とPixel(ピクセル)を組み合わせた言葉)で表現されたロボット「ボクロボ」をステージ上に配置して戦わせ、敵のボクロボを撃破することだ。ボクロボには近接攻撃タイプ、遠距離攻撃タイプ、支援タイプなどの特性があり、バトルごとにチームを編成して戦っていく。戦闘はAIによって自動制御されるオートバトル形式(オートチェス形式とも)で、勝利をおさめるうえでチーム編成と初期配置が極めて重要になっている。
また、ボクロボは「コア」と「ボディ」から構成されており、バトルによってボディが破損していくため、定期的にボディを乗り換える必要がある。この時、選んだボディによってコアが異なる成長をとげるため、ボクロボにある程度の個性を持たせることができる。戦闘中、唯一プレイヤーが介入できる「オーバークロック」を使えば、ボディにダメージを受ける代わりに特殊能力を発動させることができ、戦局を大きく変化させることも可能だ。
このように本作の肝は、何度もオートバトルを繰り返しながら、ボクロボの編成・配置・成長の最適解を見つけ出していくことにある。そして、このおもしろさに気づくか否かが、本作が楽しいと思えるか否かの分かれ目になっている。最初からこの手のゲームにハマれる人であれば、何十時間でも楽しく遊び込めるだろう。しかし、そうでない人の方が圧倒的に多いであろうことも、また事実だと思われる。
ゲームの改善は魅力の向上につながるか?
まず、敵と味方のボクロボのデザインが同じなので、パッと見て見分けがつきにくい。一応、暖色系と寒色系でタイルの色分けがなされているが、視認性が良いとは言えない。他にも編成画面で一度ボクロボを選ぶと変更できない、バトルのリワードで獲得できるボクロボを選ぶとき、編成の状況が確認できないなど、UI/UX的な不備が目立つ。これらを改善していくことで、遊びやすさが向上するだろう。
他にストーリー要素も存在するが、思わせぶりな内容が多く、ボリュームも少ないため、プレイヤーの動機づけにあまり貢献していない。アリの巣穴を観察するような無機的な世界観も、そうしたゲームが好きな人なら楽しめるだろうが、あまり一般的とはいえない。コアとボディではなく、パイロットと機体にした方が、よりキャラクター性が出るし、ストーリーにも絡めやすいと思われる。
バトルの切り札である「オーバークロック」も使いどころが難しく、ゲームシステムに馴染んでいないように思われる。オーバークロックの効果を強調するなら、現状のような完全自動ではなく、マウスをクリックするたびに動作するターン制にするのも一案だろう。しかし、そうすると画面のワチャワチャ感が薄れてしまうのも事実。いずれにせよ、もう一工夫あっても良かったのではないだろうか。
もっとも、こうした改良を続けていくと、工数がどんどん膨らむ一方で、尖った要素がなくなってしまう。むしろ本作はそうしたゲームとは真逆の位置にいるからこそ、作品としても商品としても価値があるといえるだろう。
なにより本作を開発したまっともぉん氏が、本稿執筆時点で大学3年生という点に驚かされる。今後も大手ゲームとは異なる、尖ったゲーム作りが続くことを期待している。
主な受賞歴:なし
Metacriticスコア:なし
Steam『ボクロボ ~Boxed Cell Robot Armies~』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1881840/_Boxed_Cell_Robot_Armies/?l=japanese
任天堂の岩田社長、ゲームビジネスの今後に警鐘を鳴らす - CNET Japan
https://japan.cnet.com/article/20061113/
まっともぉん氏(作者)Twitter
https://mobile.twitter.com/matsu_friends
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