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現実のサインシステムをゲーム内にどのように組み込むか?『STATIONflow』の挑戦【インディーゲームレビュー 第69回】

時にダンジョンに見立てられる地下鉄の構内。乗客にわかりやすい駅構内をデザインする『STATIONflow』は、現実を題材としているからこそ、現実と同じ問題を解決する方法論を模索しているように見える。


地下鉄の構内をダンジョン化させないことが目的

ゲームが現実の抽象化と誇張化でデザインされるとしたら、『シムシティ』に代表される建築シミュレーションは、その好例だろう。現実では何ヶ月、時には何年も(バルセロナのサグラダ・ファミリアは100年以上だ)かかる都市計画や建造物も、ゲームでは数分で作れる。スクラップ&ビルドも思いのままで、建築基準法に違反するような建物も作れる。まさに、ゲームならではのジャンルだろう。

もっとも、現実をモチーフにしているからこそ、時には現実に足をすくわれることもある。乗客に優しい地下鉄の駅構内を作り上げていく『STATIONflow』も、駅構内の案内標識体系、いわゆる「サインシステム」のデザインという点で、同じ問題に直面しているように見える。

東京メトロ渋谷駅構内立体図
引用元:https://www.tokyometro.jp/station/shibuya/yardmap/

アーリーアクセス版ならではの甘さもあるが、今後に期待できる

時にダンジョンと称される地下鉄の駅構内。中でも渋谷は日本(いや、世界でも)有数の複雑な導線で知られており、多くの迷子を生みだしている。そこで求められるのが適切なサインシステムで、『Slay the Spire』のレビューで紹介したとおり、東京メトロではさまざまな工夫が行われている。

本作『STATIONflow』も同様で、プレイヤーが地下鉄のプラットフォームと出口を適切な通路でつなぎ、できるだけシンプルな導線を保ちつつ、駅を拡張していくことが目的だ。最初はプラットフォームが1つと、出口が3つだけだが、乗客数が増えるに従って、次第にその数が増えていく。トイレや自動販売機などの設置も必要だ。よかれと思って作った通路が、次第に邪魔な存在になっていく……などの要素も組み込まれている。

もっとも、アーリーアクセス版ということもあり、ゲームバランスはそれほどシビアではない。日本語対応はなされていないが、ゲーム内容がシンプルで、動画チュートリアルも丁寧なので、多くの人が楽しめるだろう。「駅が一種類しかない」「施設の数が少ない」「通路を作るエディタに癖がある」「効率性を追求すると美観が損なわれやすい」などのマイナス点はあるが、今後のアップデートで改善されていくことと思われる。

三角形の隙間を床で埋めようとしているところ。しかし、見た目的には問題ないが、他の床と重なっているため、埋めることができない。本作のエディタには、こうしたわかりにくさが残っている

乗客には視線と視界が設定されている。迷子になっている乗客をチェックし、それに適した案内標識を追加していくのだが、ともすれば床が矢印だらけになってしまう

むしろ、それ以上に本質的な問題点がある。それが駅構内のサインシステムだ。本作を進めていくと、駅構内で迷子になる乗客が多発する。対策として用意されているのが、床に出口やプラットフォームの案内標識を配置していくことだ。適切に配置すると、迷子客が減少し、駅の満足度が上がる。しかし、現状のサインシステムでは矢印で方向を指し示すことしかできない。そのため、わかりやすい案内標識を心がけようとすると、床が標識で埋め尽くされてしまう問題が発生する。

これは現実世界でも同じだ。東京メトロ銀座線のホームページでも「調査の結果、親切に表示しすぎると情報量が増えてしまい、かえって理解しにくいということがわかったため、情報量を充実させつつも、盤面が煩雑にならないようバランスを調整しています」という説明書きがある。しかも近年では文字情報が4カ国語で表記されるようになったため、ますます案内がわかりにくくなっている。多くの人に対応しようとするあまり、多くの人にわかりにくい案内になりつつあるのだ。

東京メトロの案内標識はピクトグラムと文字情報で構成されている
引用元:https://www.tokyometro.jp/ginza/topics/20180622_179.html

本作のUIはアイコンのみでデザインされ、スッキリしている。これにより、ローカライズの工数を抑えることにも貢献している

ゲームのUI/UXの優位性を見せられるか

本作においてこの問題を解決するには、大きく3つの方法論がある。

1.サインシステム自体を削除する
2.乗客のナビゲーションAIを賢くする
3.サインシステムをよりわかりやすいものにする

「導線をシンプルに保ちつつ、駅構内を発展させていく」というゲームのコンセプトをふまえれば、2と3の併用が望ましい。その際にどのようなサインシステムを作り上げるかが、ゲームクリエイターの腕の見せどころだろう。

本作は国内のスタジオが開発しているにもかかわらず、当初から他言語対応がなされるなど、海外展開が志向されている。そのためグラフィックが日本のゲームらしからぬシンプルさで、UIもピクトグラムを多用しており、テキストメッセージが少ない。『Slay the Spire』で論じたとおり、ゲームのUI/UXは現実よりも高いレベルにある。このコンセプトを保ちつつ、ぜひ理想的なサインシステムを実装して、現実世界に対してお手本が示されることを期待したい。

<参考・参照元>
銀座線リニューアル公式サイト
https://www.tokyometro.jp/ginza/

■関連リンク
Steam『STATIONflow』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1122120/STATIONflow/
DMM GAMES
https://games.dmm.com/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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