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『Into the Breach』にみるターン制ストラテジーの革新【インディーゲームレビュー 第49回】
『FTL: Faster Than Light』の開発チームによる新作ゲーム『Into the Breach』。エネミーの攻撃前に移動・攻撃できるというワンアイデアと、練り込まれたバランス調整によって、本作は名作ストラテジーゲームとなった。
もっとも、このゲームは深みがない。なぜなら先手・後手ともに最善手を尽くすと、必ず引き分けになるからだ。そして「『三目並べ』はつまらない。なぜなら、遊ぶ前から結果がわかっているからだ」という一文は、ゲームレビューの原点だといえる。評価と理由をわかりやすく論述するのがゲームレビューだからだ。
それでは、『三目並べ』をどのように改造すれば面白くなるだろうか。さまざまな方法が考えられるが、できるだけシンプルなやり方が望ましい。ルールを複雑にすればするほど、オリジナルの『三目並べ』にみられる「紙と鉛筆があれば、すぐに遊べる」「ルールがシンプルで説明が容易」「短時間で終わる」などの長所が削がれてしまうからだ。
そして、この演習はゲームデザインを学ぶ上で格好のテキストになる。ルールの組み合わせでおもしろさを作り出すことがゲームデザインだからだ。
ゲームシステムはターン制ストラテジーだが、通常のゲームと少しだけ違っている。単純に敵・味方の移動と攻撃を繰り返すのではなく、敵の移動と攻撃の合間に、味方の移動と攻撃ができるのだ。これが未来を見通すタイムトラベラーという設定につながっている。
もっとも、自軍は3機(つまり3手)なのに対して、Vek側は8×8のマップ上に5~6体(つまり5~6手)が出現する。正面から戦っては勝ち目が薄いのは明らかだろう。そこで重要になるのが、性能の異なる複数の機体をうまく活用することだ。ゲームの主目的は拠点防御で、1ステージは5ターンで終了するので、敵を全滅させる必要はない。爆風で敵の位置をずらし、街を攻撃目標から外したり、敵を水没させたりして、うまく凌いでいくのだ。
ゲームの基本的な流れ
1. マップ上の任意の地点に機体を配置する
2. Vek側が一体ずつ移動し、攻撃目標が設定される
3. 敵が攻撃する前に、プレイヤー側が移動と攻撃を行う
4. 生き残ったVekが攻撃を行う。以下、2に戻る
もちろん、多くのゲームがそうであるように、本作の妙は絶妙なバランス調整にも存在する。少数の手駒で多数の敵軍を撃破する快感は、ギリギリのバランス調整なくしては生まれない。しかし、ゲームメカニクスのデザインとバランス調整の、どちらが重要かといえば、前者であることは明らかだ。「敵の攻撃の前に移動と攻撃ができる」というアイデアなくしては、本作は存在し得ないからだ。この1点で本作はターン制ストラテジーの革新と言われるゲームになった。
ちなみにBest Design部門には、他に『Marvel's Spider-Man』『Celeste』『Red Dead Redemption 2』『God of War』がノミネートされていた。これらを差し置いて、一介のインディーゲームである本作が受賞したのだ。枯れきったジャンルだと思われていたターン制ストラテジーを、ワンアイデアでまったく異なるゲーム体験を持つ作品に仕上げた点に、多くのゲーム開発者が賞賛を贈ったというわけだ。ゲームデザインについて学ぶ上で、多くの示唆を与えてくれる作品だと言えるだろう。
GDCAで受賞の喜びを語るSubset Gamesの面々
※なお、本作は有志によって日本語化ファイルが作成されている。日本語化は一部に留まっているが、ゲームを遊ぶだけなら問題ない。必要に応じて活用するといいだろう。
■関連リンク
Steamの『Into the Breach』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/590380/Into_the_Breach/
『Into the Breach』日本語化ファイル
https://itb.llism.net/
Subset Games公式サイト
https://subsetgames.com/
『三目並べ』の改造で学ぶゲームデザイン
古くから知られるアナログゲームに『三目並べ』がある。3×3の格子上で2人が交互に「〇」と「×」を書き込んでいき、一列に並べる遊びだ。もっとも、このゲームは深みがない。なぜなら先手・後手ともに最善手を尽くすと、必ず引き分けになるからだ。そして「『三目並べ』はつまらない。なぜなら、遊ぶ前から結果がわかっているからだ」という一文は、ゲームレビューの原点だといえる。評価と理由をわかりやすく論述するのがゲームレビューだからだ。
それでは、『三目並べ』をどのように改造すれば面白くなるだろうか。さまざまな方法が考えられるが、できるだけシンプルなやり方が望ましい。ルールを複雑にすればするほど、オリジナルの『三目並べ』にみられる「紙と鉛筆があれば、すぐに遊べる」「ルールがシンプルで説明が容易」「短時間で終わる」などの長所が削がれてしまうからだ。
そして、この演習はゲームデザインを学ぶ上で格好のテキストになる。ルールの組み合わせでおもしろさを作り出すことがゲームデザインだからだ。
既存のストラテジーゲームをワンアイデアで改造
今回レビューする『Into the Breach』は、まさにこの演習の発展系ともいえるゲームだ。主人公は未来から来たタイムトラベラーの戦士で、3機の巨大ロボを指揮し、人類文明を脅かす虫型生物「Vek」と戦っていく。ゲームシステムはターン制ストラテジーだが、通常のゲームと少しだけ違っている。単純に敵・味方の移動と攻撃を繰り返すのではなく、敵の移動と攻撃の合間に、味方の移動と攻撃ができるのだ。これが未来を見通すタイムトラベラーという設定につながっている。
もっとも、自軍は3機(つまり3手)なのに対して、Vek側は8×8のマップ上に5~6体(つまり5~6手)が出現する。正面から戦っては勝ち目が薄いのは明らかだろう。そこで重要になるのが、性能の異なる複数の機体をうまく活用することだ。ゲームの主目的は拠点防御で、1ステージは5ターンで終了するので、敵を全滅させる必要はない。爆風で敵の位置をずらし、街を攻撃目標から外したり、敵を水没させたりして、うまく凌いでいくのだ。
ゲームの基本的な流れ
1. マップ上の任意の地点に機体を配置する
2. Vek側が一体ずつ移動し、攻撃目標が設定される
3. 敵が攻撃する前に、プレイヤー側が移動と攻撃を行う
4. 生き残ったVekが攻撃を行う。以下、2に戻る
もちろん、多くのゲームがそうであるように、本作の妙は絶妙なバランス調整にも存在する。少数の手駒で多数の敵軍を撃破する快感は、ギリギリのバランス調整なくしては生まれない。しかし、ゲームメカニクスのデザインとバランス調整の、どちらが重要かといえば、前者であることは明らかだ。「敵の攻撃の前に移動と攻撃ができる」というアイデアなくしては、本作は存在し得ないからだ。この1点で本作はターン制ストラテジーの革新と言われるゲームになった。
なみいる大作ゲームを蹴散らして受賞
本作を開発したのは『FTL: Faster Than Light』を開発したSubset Gamesだ。前作がナラティブ・ゲームとして高く評価されたのに対して、本作はナラティブの要素は薄い。その一方でゲームとしての面白さは際立っている。これについては多くのゲーム開発者が同感だったようで、本作はGDCA(Game Developers Choice Awards)のBest Design部門に輝いた。ナラティブではなく、ゲームデザインの点で評価されたのだ。ちなみにBest Design部門には、他に『Marvel's Spider-Man』『Celeste』『Red Dead Redemption 2』『God of War』がノミネートされていた。これらを差し置いて、一介のインディーゲームである本作が受賞したのだ。枯れきったジャンルだと思われていたターン制ストラテジーを、ワンアイデアでまったく異なるゲーム体験を持つ作品に仕上げた点に、多くのゲーム開発者が賞賛を贈ったというわけだ。ゲームデザインについて学ぶ上で、多くの示唆を与えてくれる作品だと言えるだろう。
GDCAで受賞の喜びを語るSubset Gamesの面々
※なお、本作は有志によって日本語化ファイルが作成されている。日本語化は一部に留まっているが、ゲームを遊ぶだけなら問題ない。必要に応じて活用するといいだろう。
■関連リンク
Steamの『Into the Breach』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/590380/Into_the_Breach/
『Into the Breach』日本語化ファイル
https://itb.llism.net/
Subset Games公式サイト
https://subsetgames.com/
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