Gamers Zone

move to login

GAME PCゲームで勝ち抜くための情報満載!

『タロティカ・ブードゥー』作ることと、それ以上に大切な伝えること【インディーゲームレビュー 第29回】

テレビゲームは、プレイヤーの関与を経て初めて価値が生まれる「永遠の未完成品」だ。そのためプレイヤーにゲームの魅力を正しく伝えることが必要になる。MSX向けに制作された『タロティカ・ブードゥー』もまた、伝えることに自覚的なゲームだった。


21世紀に復活したMSX向け探索アドベンチャー

ゲームはプラモデルなどと同じく、手にとって、遊んでもらって始めて価値が出る娯楽だ。そのためには「遊びやすくすること」と「試遊機会を増やす」ための努力が欠かせない。この時「テストプレイを兼ねてイベントに出展し、結果を開発に反映させる」といった具合に、両者には関連性がある。そして、これが適切にできるのは開発者自身に他ならない。このように開発者には「製品の魅力を適切に伝える」さまざまな努力が求められているのだ。

MSX1向けに開発された探索型アドベンチャーゲーム『タロティカ・ブードゥー』もまた、この点に自覚的なゲームの一つだ。オリジナル版は1997年にディスク版で発売され、そこから紆余曲折を経て、2017年末にSteamで発売された。ゲームには公式エミュレーターの『MSXPLAYer』が含まれ、起動するとMSXロゴが表示される。ゲームはBASICとマシン語で記述され、実行中に中断してプログラムリストを表示させることもできる。

ゲームの目的は飛行機の墜落先にあたる屋敷の家族を救出することだ。しかし家族は晩餐会が終わるまで屋敷を離れようとしない。そのため屋敷を探索し、晩餐会を終了させて、家族と共に屋敷を脱出することが必要だ。一方、屋敷はさまざまな仕掛けや、敵対的なクリーチャーに満ちていて、主人公の行く手を遮ろうとする。モノクロの画面に加えて、総勢600枚以上にもおよぶ手描きのアニメーションが華を添えている。

ゲームはMSXのエミュレーター上で動作し、起動時にはロゴも表示される

プログラムはBASICとマシン語で書かれており、実行中に停止してプログラムリストを表示させることもできる

仮想身体とコントローラーの関係性を伝えるために

すでに何度か本連載で述べたように、ゲームは「操作できるもの(仮想身体)」と「操作できないもの(仮想世界)」の関係性で記述される。その上で仮想身体とプレイヤーをつなぐのが入力デバイス(コントローラー)だ。プレイヤーは入力デバイスを通して仮想身体と一体化し、仮想世界で行動する。そのため両者の関係性は、プレイヤーにどのようなゲーム体験を提供するかをベースにデザインされる。

『タロティカ・ブードゥー』がユニークなのは、まさにこの点にある。本作ではプレイヤーは2つの仮想身体を切り替えながらゲームを進めていく。マップ上を移動する「カーソル」と、バトル時に使用する「人間型のアニメーション」だ。プレイヤーはカーソルを動かし、スペースキーを押しながら、屋敷を探索していく。バトル時には矢印キーの上下を交互に押しながら、剣を前後に振って敵を攻撃していく。

このうち前者は「十字キーで移動し、ボタンでアクション」と同様のアナロジーで、比較的理解しやすい。しかし後者は「剣を前後に振る」アクションと、「矢印キーの上下を交互に押す」行為との関係性に気づきにくい。他のゲームには見られない、本作独自の関係性だからだ。多くのプレイヤーは最初のバトルで敵を倒せず、戸惑うことになる。逆にこの関係性がわかれば、比較的スムーズにゲームを進めていける。

そのため、本作では徐々に両者の関係性を理解できるようにゲーム序盤の構成が配慮されている。玄関を矢印キーの上下を交互に押しながら、ガタガタと動かした上で、敵とのバトルに突入させるといった具合だ。その後も次第に攻撃のタイミングがシビアになるなど、操作の難易度が上昇していく。制作者の東郷生志氏いわく「当初はもっと不親切だった。イベント出展を通してプレイヤーを観察しながら、徐々に修正していった」のだという。

屋敷の入り口は扉に鍵がかかっているらしい。カーソルキーの上と下を押して、ガタガタと扉を動かしてみるようにヒントが表示されるが……?

突然犬が襲ってくる。画面左上の説明書きどおり、カーソルキーの上を押して攻撃、下を押して防御しよう

おそらく最初に詰まることになるのではないかと思われるゾンビ。本作には戦闘においてもパズルが含まれている。どうやって撃退すればいいのか……?

ゲーマーコミュニティとの交流の中で導かれたIGFへの道

本作はイベント出展に意欲的なインディーゲームとしても群を抜いている。台北ゲームショウ(台湾)、釜山ゲームコンテスト(韓国)、WePlay(中国)、GamesCon(ドイツ)、IGF(アメリカ)など、イベント出展歴は国内外で十数回を数える。ローカライズも日・英・韓・中(繁体字・簡体字)の5カ国語むけに行われているほどだ。東郷氏は「招待出展も多く、そこまで費用はかかっていない」と話すが、渡航費だけでも相当の額にのぼる。

こうした一連の海外出展のハイライトともいえるのが、世界最高峰のインディーゲームアワード、IGF 2018のファイナリストに輝いたことだ。米GDCのエキスポ会場に設置されたブースでは、ひっきりなしに業界関係者が訪れ、ゲームをプレイしていた。7つある部門賞のうち、本作がノミネートされたのはゲームの可能性を広げるNUEVO AWARD。惜しくも受賞は逃したが、本作の先進性が世界的に評価された形だ。

IGF2018のファイナリストに輝き、GDC会場でデモ展示を行う東郷氏

東郷氏は「2014年のビットサミットに出展したのがきっかけだった」と語る。MSX向けのゲームとして出展したところ、レトロ調のインディーゲームとして幅広く受け入れられ、驚いたというのだ。その後、東京ゲームショウ2014のインディーゲームコーナーに出展したところ、韓国や台湾のユーザーから「ゲームを購入したい」という申し出を受けることに。より多くのユーザーに届けるために、Steamでの配信に挑戦することになったという。

「当時はSteamの存在すら知らなかった」という東郷氏。しかし、Steam Greenlightにプロジェクトを登録し、並行してアジア圏の展示会に出展しながら、現地のユーザーコミュニティに支援を打診していった。ローカライズも現地コミュニティの支援によるものだ。その過程でゲームの遊びにくさが改善されていき、さらに完成度が向上していくことに。こうした努力が実り、2017年末に正式リリースを迎えることができた。

話はこれだけに留まらない。3月16日には無料のダウンロードコンテンツとして、手書きの技術解説書がリリースされたのだ。ゲームのヒントに加えて、開発情報についても詳細に記されており、腕に覚えのあるプレイヤーならプログラムの改造まで楽しめる。「ゲームの魅力を正しく伝える」という意味において、これ以上のものはないだろう。今後も内容を追加改訂した第2版の配布が予定されているという。

ダウンロードコンテンツとして無料提供されている技術仕様書。これを見てプログラムを改造することも可能だ。また、ゲームを進める上でヒントとなるフローチャートも掲載されている
http://store.steampowered.com/app/778970/TAROTICA_VOO_DOO__CHRONICLES_OF_TAROTICA_VOO_DOO/

このように本作はゲーム開発者とユーザーコミュニティとの関係性構築を通して、日本から世界へと大きく羽ばたいていった。その上で本編に新しい仕様を追加していくのではなく「ゲームの魅力を適切に伝えるために必要な部分」に絞って改善が重ねられていった点に、本作のポイントがある。ゲームを完成させるだけで力尽きてしまうインディーゲームが多い中、本作のあくなき「伝えるための努力」には大いに学ぶべき点がありそうだ。

©️1998,2017 TPM.CO SOFT WORKS


■関連リンク
Steam『タロティカ・ブードゥー』のページ
http://store.steampowered.com/app/603280/TAROTICA_VOO_DOO/
TPM.CO(公式サイト)
http://www.tpmcosoft.com/msx.shtml


【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

WRITER RANKING プロゲーマーやゲーム業界人などの人気ライターランキング