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『UNDERTALE』個人制作に近づくインディーゲームの魅力を伝える上で重要なこと【インディーゲームレビュー 第20回】

 
翻訳小説では作者と共に翻訳者がクレジットされる。洋画の字幕制作でも同様だ。しかし、ゲームでは翻訳者の名前が出ることはない。ゲームが個人で作れるようになった今、ローカライズの在り方もまた変わっていくのではないか……。『UNDERTALE』は、そのことに思いをはせる内容だった。

地底深くで主人公が眼を覚ますところからゲームは始まる

ぼくは最初に肉が見たい。骨なんか後でつくよ

今でも根強い人気を誇るRPG『MOTHER2 ギーグの逆襲』がリリースされた当時、ゲームデザインとシナリオを担当した糸井重里が、ゲーム雑誌のインタビューで次のようなコメントを残している。

――『MOTHER(以下1)』というゲームは、「心」や「気持ち」を描こうとした作品だと感じたのですが?
「まあその通りです。『個人的な思い』みたいなものが、どうしてゲームの中でこんなにそげ落ちてっちゃうんだろう、と感じてたんです。数字のやりとりでごまかされているっていう気がしてた。数字のやりとりっていう骨格があって、そこに貧弱な肉をつけていくっていうゲームが今までのゲーム界を覆ってたとしたら、ぼくは最初に肉が見たい。骨なんか後でつくよ。『骨』ってどっちかっていうと、ソフト内ハードの部分だと思うんですよ。問題はハードじゃないんだ。その部分がぼくの意気込みだったですね。」
引用元:『糸井重里サマ MOTHER2以外を語る』ゲーム批評 Vol.1

2015年にリリースされ、世界中で大絶賛を浴びた『UNDERTALE』もまた、「骨ではなく肉が前面に出たゲーム」だといえるだろう。本作は『MOTHER』シリーズをはじめ、日本製ゲームに多大な影響を受けたアメリカの青年トビー・フォックスが、ほぼ一人で作り上げたRPGだ。主人公はモンスターの住む地底世界に落下した子どもで、さまざまなキャラクターと交流しながら、地上へ帰るための冒険を繰り広げていくことになる。

「誰も倒さなくていいRPG」というキャッチコピーどおり、本作の大きな特徴に、モンスターと会話したり、いろいろと働きかけをしたりして、ほとんどのバトルを平和裏に終わらせられる点がある。もっとも、モンスターとの交流は『真・女神転生』シリーズからの引用であり、弾幕シューティング系バトルは『東方Project』からの引用である。ドット絵で描かれた温かみのある世界観や、随所に見られるメタフィクション的な部分には、本人が大ファンだという『MOTHER』シリーズからの影響が見て取れる。

ステージ上に配置された多彩なパズルを解きながらゲームを進めていく

バトルはコマンド選択式で進み、ボスバトルではアクション要素も加わる

これらは本人が多くのインタビュー記事で明かしていることであり、本作は多くのゲームから必要な「骨」、すなわちゲームメカニクスを集めて、一つに組み上げたという言い方ができる。むしろ、ポイントはそこでどのような「肉」、すなわちテーマやメッセージを盛り付けるかであり、ゲームである以上、その両者の関係性が問われることになる。そして、その関係性が適切であったからこそ、多くのファンに愛される作品になったといえるだろう。そう、日本以外では……。

「肉」にあわせて「骨」まで修正された日本語版

実際、世界中で話題になっていると聞き、筆者も2016年12月にプレイしてみたものの、まったくピンと来ることなく、早々に止めてしまった経緯がある。理由は簡単で、英語版でプレイしたからだ。その後、有志により日本語版パッチが作成され、PS4とPS Vita版の登場にあわせて、公式日本語版がSteamでも配信された(英語版購入者もアップデートで日本語版が遊べるようになる)。筆者も改めて日本語版で遊び直し、「本作は骨ではなく肉のゲーム」だと理解できた。まさにローカライズの勝利であり、過去ここまで丁寧に日本語版が作成されたゲームはなかっただろう。

通常、海外のゲームが日本語化される際、はじめに予算と納期が決められ、その範囲内で最善な作業がおこなわれる。しかし本作はトビー氏の希望もあり、クオリティを最優先するスタイルで作業が進められた。その象徴とも言えるのが骸骨のキャラクター、パピルスのテキスト表示で、英語版では横文字表記だったものが、わざわざ日本語版では縦文字表記になった。フォントやテキストの表示タイミングも細かく調整されており、このことがパピルスのちょっと世間とずれた感じや、独特のおかしさ、哀しさにつながっている。「肉」にあわせて「骨」まで修正されたのだ。

日本語版ではパピルスの台詞表記が英語版から修正されている

パピルスにおいては、翻訳も非常に力が入れられている。このあたりの事情はコンソール版でパブリッシャーをつとめたハチノヨンと、翻訳実務を担当した福市恵子のインタビュー記事に詳しい。

「彼は独特のボキャブラリーでしゃべるので、それを翻訳しつつ、1行に5文字しか入らない縦書きという仕様でキチンと読めるように……とやることがとにかく多かったんですよ。翻訳者としてはすごく大変だったんですけど,実際にできあがったものを読んでみると私自身も満足いく感じに仕上がったので,頑張って良かったなと思っています」
引用元:「UNDERTALE」のローカライズ担当スタッフにインタビュー。日本語版はToby Fox氏と一緒に作り上げた夢のようなプロジェクトだった - 4Gamer.net

『ドラクエ』の堀井節、『MOTHER』の糸井節と同様に、『UNDERTALE』はトビー節のゲームだ。しかし、それも適切にローカライズされてこそ、真価を発揮する。実際、有志によるパッチでは漢字交じりだった台詞が、公式日本語版ではすべて仮名文字になっている。『MOTHER』シリーズのオマージュであり、この点だけを取ってみても、ローカライズの品質がゲーム体験に大きな影響を与えることがわかる。実際、公式日本語版を一度遊んでしまうと、もう有志によるパッチには戻れない。制作者にとっても、これ以上のギフトはなかっただろう。

本作がそうであったように、今後インディーゲームは個人制作の色合いを、ますます強めていく。その際にローカライズはオリジナル版の魅力を適切に伝えるものとして、ますます重要になっていくだろう。本作に唯一、足りないものがあるとしたら、翻訳者のクレジットが目立たないことだ。翻訳小説や洋画の字幕制作と同じように、ローカライズ、なによりゲーム翻訳者が、もっと前面に出てきてくるようになるべきだ。良くも悪くも日本語に守られた日本のゲームシーンでは、それが求められるだろう。

Undertale (C) Toby Fox 2015-2017

■関連リンク
Steam『UNDERTALE』のページ
http://store.steampowered.com/app/391540/Undertale/
ハチノヨン(家庭用ゲーム版パブリッシャー)
http://8-4.jp
「UNDERTALE」のローカライズ担当スタッフにインタビュー。日本語版はToby Fox氏と一緒に作り上げた夢のようなプロジェクトだった|4Gamer.net
http://www.4gamer.net/games/384/G038441/20170814015/

【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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