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『ABZÛ』画面の一部が常に揺れ動く世界での探索【インディーゲームレビュー 第6回】

 
プレイヤーをゲーム世界に引き込むのは派手な銃撃戦やアクションだけではない。自身の操作に従って緊張と緩和のループを作り出せれば、プレイヤーを捉えて放さないゲーム体験が提供できる……。その見本ともいえるタイトルが『ABZÛ』だ。ゲーミングPCならではのマシンパワーが生み出す本作ならではの多重リズム構造とはなにか。

映画『ファインディング・ニモ』を彷彿とさせる海中散策

ゲームプレイにハイスペックなPCを必要とするにもかかわらず、そのパワーがほとんどすべて背景描写に費やされる……。このように書くと「グラフィックが綺麗なだけで、凡庸なゲーム」という印象を抱くだろう。ダイバーとなって海中を自由自在に泳ぎ回りながら、海底探索を進めるアクションアドベンチャー『ABZÛ』は、まさにそうしたゲームだ。

ゲームはカラフルな珊瑚礁が広がる大陸棚、クラゲが漂う神秘的な洞窟、巨大な鯨が行き交う海溝など、いくつかのエリアに分かれており、簡単なパズルを解きながら進んでいく。印象的なシーンは多々あるが、中でも海流に乗って大小様々な魚群と共に移動するシーンでは、映画『ファインディング・ニモ』に入り込んだような、気分が高揚するひとときが体験できるだろう。

無数の魚たちと海底散策が楽しめる

本作の開発スタジオ、Giant Squidを率いるMatt Nava氏は、2012年にPS3で配信され、全世界で大旋風を巻き起こした『風ノ旅ビト』のアートディレクターだ。本作もミニマルなグラフィックとナラティブなゲーム体験という、前作の特徴を受け継いでいる。ゲームオーバーの概念に乏しく、約2時間でクリアできる点も同様だ。

それにしても、本作のどこに遊び手を魅了してやまない秘密が隠されているのだろうか。ゲーム内容自体は「ダイバーを操作して海中を探索し、いくつかのパズルを解いてエリアを開放し、先に進んでいく」というもので、激しい撃ち合いをするなど、派手な要素が盛り込まれているわけではない。それでもコントローラーを握り続けてしまうのは、ゲームならではのリズム感の提示にある。

画面演出が生み出す多重リズム構造


本作のベースとなるリズムは、ハリウッド映画でおなじみの三幕構造だ。「設定」「対立」「解決」で、それぞれの比率は1:2:1。「対立」パートはミッドポイント(物語の中間地点)で区切られ、映画全体を前半と後半に分割する。本作においても同様で、前半はダイバー自身のアイデンティティ探求がテーマの「内なる旅」。後半は世界の救済という「外なる旅」となる。

続いてのリズムは、エリアごとの進行だ。本作はエリアごとに簡単なパズルを解き、それによって神殿のようなポイントが解放され、最終的に次のエリアに移動する構造をとる。ここでは自分のペースでゲームが進められる「海中」と、イベントシーンが中心の「神殿」という、二つの異なるリズムがある。時には海流にのって次のエリアに高速に進むという、第三のリズムも体験できる。

静と動、エリアによって固有のリズムでゲームが進む

その次のリズムが、各々のエリアがもつリズムだ。前述の通り、本作は大陸棚、珊瑚礁、洞窟、海溝、古代遺跡などで区切られており、それぞれが固有のリズムを有している。珊瑚礁ではゆったりと自分のペースで探索でき、古代遺跡では障害物を避けて慎重に移動、神殿内では簡単なパズルで頭をひねり、時にイライラさせられつつ……といった具合だ。

そして、もっとも細かいリズムを刻むのが、その時々でのビジュアル変化だ。画面一杯にゆれる海藻や、大小様々な魚群をはじめ、本作では常に画面全体が変化し続けている。これにインタラクティブ性を持ったBGMが加わり、細かいリズム感を刻んでいる。こうした多重リズム構造がプレイヤーの心理に「緊張と緩和」のループ構造を生みだし、ゲームに引き込ませているのだ。

画面演出を支えるマシンパワー


中でも重要なのが「画面のどこかが常にアニメーションをしている」ことだ。これはゲームの大きな特徴の一つで、リズム演出の基本概念になる。特に本作のような海中が舞台のゲームでは、ある程度遠方まで海底が見わたせるだけでなく、画面にある程度の密度感を与えるために、相応の魚群が必要になる。結果として非常に多くの演算を行う必要が生じてしまう。

高いマシンパワーだからできる、世界を彩る美しいレンダリング

本作ではこの演算を比較的マジメに行っており、GPUにGeForce GTX 750クラスが推奨されるという、一昔前のPCでは動作が厳しい内容になった。筆者も本作でグラフィックカードを買い換えた一人だ。しかし本作はそれだけの投資を無駄にしない、さまざまなテクニックが詰め込まれた内容だと言える。だからこそプレイヤーを2時間もの間、ゲームに没頭させることができるのだ。

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■関連リンク
『ABZÛ』
http://www.abzugame.com/
GIANT SQUID
http://giantsquidstudios.com/
Steam『ABZÛ』のページ
http://store.steampowered.com/app/384190/?l=japanese
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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