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『Superliminal』個人制作から生まれるデジタルゲームならではのパズル体験【インディーゲームレビュー 第92回】

夢の中で強制遠近法や錯覚を利用して出口を探していく一人称パズルゲーム『Superliminal』。本作はデジタルゲームならではのパズルゲームであり、それゆえに万人向けではないアキレス腱も内包している。


目の前のモノを疑うところからすべては始まる

前回レビューした『Timelie』に引き続き、今回もゲーム内パズルが主役のゲーム『Superliminal』を取り上げる。本作は夢の中で強制遠近法や錯覚を利用して出口を探していく一人称パズルゲームで、「画面上で遠くにあるものは大きく、近くにあるものは小さく見える」などの原理が巧みに織り込まれている。本作の特性は文章で説明するよりも、実際に動画を見てもらった方が、良く理解できるだろう。デジタルならではのパズルゲームだといえる。


そのうえで本作には「目の前のパズルをクリアしなければ先に進めない」という点で『Timelie』との共通項がみられる。

最初に断っておくと、筆者はこうした特性を持つゲームがあまり好きではない。「パズルの存在に気づく能力」「パズルを解く能力」「パズルの解き方にそって、ゲームを操作する能力」には個人差があるからだ。変な言い方だが、長年この仕事をしていながら、こうした能力が平均より低いことについて筆者には自信がある。

そのため、「パズルが解けなくても、先に進めるように、迂回路を設定する」か、「パズルが解けない人のために、ゲーム中でヒントを提示するか、答えが見られるようにする」必要があるという立場だ。言うまでもなく、こうした仕掛けは本作のようなゲーム内容と矛盾する。

一方で世の中には、こうしたゲームの熱狂的なファンも存在する。脱出ゲームのファンは好例で、脱出ゲームなら内容を問わず、何でも遊ぶユーザーも一定数存在するほどだ。この点を踏まえたうえで、以下の文章を読み進めて欲しい。

解き方はわかっているのに、クリアできないジレンマ


本作の最大のポイントは、一見すると何でもない空間の中に、パズルが巧みに織り込まれている点だ。プレイヤーができることは、部屋の中を歩き回ったり、ジャンプしたり、モノを持ち上げたり、スイッチを入れたりすることなどに限られている。そのため、シーン内でできることをすべて試せば、原理的にはパズルが解けるはずだ。しかし、実際にはそうはならない。どこにパズルが存在するか、理解できないからだ。

裏を返せば、パズルの存在に気づくことができれば、半分以上クリアできたようなものだ。そのためには、目の前の世界やオブジェクトに対して、さまざまな視点からアプローチする必要がある。「ただの壁の模様だと思ったものが、特定の場所から見ると意味のある図形になり、立体物として実体化する」などは好例だ。いわゆる「アハ体験」であり、センスオブワンダーが本作のキモになっている。

ちなみに本作の原型となったゲーム『Museum of Simulation Technology』は、東京ゲームショウで毎年開催されるインディーゲームアワード「センス・オブ・ワンダーナイト2013」で大賞にあたるオーディエンスアワードを受賞している。このことからも、本作の衝撃が並々ならぬものだったことがわかるだろう。長らくリリースが待たれていたタイトルであり、当時会場で取材していたことから、感慨深くプレイできた。

もっとも、本作のストレスはその先に存在する。パズルの存在に当たりをつけたプレイヤーは、なんとかしてパズルをクリアしようとする。ところが操作が難しく、パズルのクリア方法は合っているにもかかわらず、先に進めない……といったことが発生するのだ。これは『Timelie』でも指摘した問題であり、多くのパズル性を内包したゲームが抱える問題点でもある。

そのうえで本作では、人によって3D酔いの問題が存在する。強制遠近法や錯覚を利用した絵作りが、一部のプレイヤーにとって空間認知の混乱をもたらすのだと推察される。筆者もその一人で、しばしば気分が悪くなるシーンが存在した。本稿のアニメーション映像をじっと見続けても気分が悪くならなければ、問題ないだろう。不快感をもつようなら、適度な休憩を挟みつつ遊んで欲しい。

「夢」と「映画」で描かれるメタフィクション的な世界観


余談だがこうした視点からみると、2Dの脱出ゲームが良くできていることが改めてわかる。パズルは画面上に存在し、パズルを解くのも画面をクリックしたり、ドラッグしたりするだけで、特別なスキルを必要としないからだ。3D酔いで気分が悪くなることもない。脱出ゲームの攻略サイトが広告収益を得られるのも、それだけ多くのプレイヤーに必要とされているから。本作とは真逆のカジュアルなパズル体験だ。

最後に世界観のユニークさについても補足しよう。本作はプレイヤーの「夢の中の世界」であるとともに、そこかしこに「映画のセット」を彷彿とさせるシーンが登場する。これが錯覚を利用したパズルとあいまって、独特のメタフィクション感を提示している。ゲームは世界観に浸って楽しむものだが、その世界自体が虚構である……こうした作家性が感じられる点もまた、本作ならではだろう。

まとめると本作はデジタルゲームならではのパズルゲームであり、唯一無二の体験が得られるが、それだけに人を選ぶ内容になっているのは間違いない。もっとも、そうしたゲームが存在するのも、インディーゲームならではだ。開発者インタビューからもわかるように、本作の核となる部分は、個人制作に近い形で作られている。今後もこうした唯一無二の体験ができるゲームが登場してくることが期待される。

metacriticスコア:74
主な受賞歴:EUROGAMER RECOMMENDED、IGN BEST OF 2019 PUZZLE GAME NOMINEE、センス・オブ・ワンダーナイト2013オーディエンスアワード

Steam『Superliminal』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1049410/Superliminal/
公式サイト
http://www.pillowcastlegames.com/
『Museum of Simulation Technology』開発者インタビュー
https://expo.nikkeibp.co.jp/tgs/2015/exhibition/exhibit/award/AlbertShih.html
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

WRITER RANKING プロゲーマーやゲーム業界人などの人気ライターランキング