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『Trek to Yomi』黒澤映画、そしてSAMURAIゲームとしての存在感【インディーゲームレビュー 第121回】

目次
  1. マカロニ・ウエスタンと時代劇の関係
  2. モノクロで描かれた世界観の豊かさ
  3. あえて邦題がつけられなかった意味とは
イタリア人の監督とポーランドのゲーム制作会社、そしてアメリカのゲームパブリッシャーが挑んだSAMURAIゲーム。黒澤明監督作品に影響を受けたモノクロの画面と絵作り、そして外国人ならではの細かいズレが世界観を豊かなものにしている。


マカロニ・ウエスタンと時代劇の関係


1960年代から1970年代前半にかけて、クリント・イーストウッドの出世作『荒野の用心棒』を皮切りに、イタリアで多数の西部劇が製作された。いわゆるマカロニ・ウエスタンだ。正義の味方の保安官が活躍する勧善懲悪のストーリーではなく、ニヒルで暴力的な主人公が登場する、現実感のあるストーリー。台詞のかわりに音楽でストーリーを語らせるなど、演出法でも大きな飛躍が見られた。マカロニ・ウエスタンはアメリカでも大ヒットを記録し、後のアメリカン・ニューシネマにつながっただけでなく、『木枯し紋次郎』、『必殺シリーズ』など、日本の時代劇にも影響を与えた。

ゲーム業界における海外発のSAMURAIゲームも、この一つになぞらえられるかもしれない。元寇をテーマとした『Ghost of Tsushima』はその好例だ。そして今回レビューする『Trek to Yomi』も、興味深い内容になっている。

監督はイタリア人のLeonard Menchiari氏で、開発はポーランドのFlying Wild Hog、販売はアメリカのDevolver Digitalという、国際的な座組が特徴的だ。鎌倉武士が主人公の『Ghost of Tsushima』に対して、『Trek to Yomi』は江戸時代が舞台。もっとも「黄泉への旅路」(ゲーム内で登場するタイトル)というだけあって、ひねりを効かせた内容になっている。


モノクロで描かれた世界観の豊かさ


主人公は若き侍、大樹(ひろき)で、町や愛する人々を守るため、突然攻め込んできたならず者の集団と戦っていくという設定だ。黒澤映画にインスパイアされたというモノクロのグラフィックや(インタビューによると、『Ghost of Tsushima』がモノクロ表現になる「黒澤モード」の発表より企画は早かったとのこと)、本作のために収録された、雅楽を用いたオリジナルサウンドが世界観を盛り上げている。なにより、こうしたゲームが海外からリリースされたことに、日本のゲーマーは感謝すべきだろう。本来は日本から世界に向けて発信すべきテーマだからだ。

もっとも、マカロニ・ウエスタンがハリウッドの西部劇と異なるように、本作もまた欧米のクリエイターならではの「差異」が特徴的だ。日本のチャンバラゲームといえば『鬼武者』シリーズや『侍』シリーズが連想されるが、それらとは世界観が微妙に異なっている。壁に囲まれた町は欧州の城塞都市を彷彿とさせるし、そこかしこに吊された縛り首も同様だ(日本ならさらし首だろう)。ゾンビ風のクリーチャーなども登場する。もちろん、それを悪いと言っているわけではない。日本人が描く中世ヨーロッパ風のファンタジー世界のように、そうした差異が個々の作品の世界観を豊かにしていくからだ。

一方でゲームの完成度について、今ひとつ中途半端な印象を受けてしまう点は否めない。個人的な印象も含まれるが、アクションゲームとしてはバトルが凡庸で、打てば響くようなアクションの妙が薄い。一方でアドベンチャーゲームとしてもキャラクターの魅力やストーリーテリングの掘り下げが乏しく、感情移入ができないように感じられた。Steamの評価が賛否両論となっているのも、こうした点を反映してのことだと思われる。ただし、これもプレイヤーが「許す!」と言ってしまえば長所に変わる。これらを補って余りある世界観の魅力があるからだ。


あえて邦題がつけられなかった意味とは


『TorqueL』のレビューで述べたように、アクションゲームはアクションの特性によって差別化される。しかし本作は時代劇のチャンバラをモチーフとしているため、超人的な動きが封殺されている。しかも、いわゆる映画的なアングルや演出のため、敵のキャラクターがどのようなアクションをしているかがわかりにくい。結果的にゴリ押しで進めていけるシーンが多く、せっかくの技の多さが生かし切れていない。主人公が繰り出すアクションが途中でキャンセルできないのも、モッサリとしたプレイ感を助長させる結果になっている。

一方でストーリー面も、主人公の大樹と敵のキャラクターがただ怒鳴り合っているだけで、議論が噛み合わず、けっきょく何が言いたいのかよくわからないシーンが多い。最初のステージでは子どもだった大樹が次のステージから成人として登場するのも、師匠の娘だった愛子がいつの間にか大樹の妻になっているのも、展開が端折られすぎていて、状況がよく飲み込めない。そのため、愛子を救出したいと願う大樹の思いも、遊んでいて共感がしにくい。その結果、台詞回しが時代劇っぽいだけの、凡庸な内容になってしまっている。


ただし、繰り返しになるが世界観やビジュアル、カットシーン、エフェクト、サウンドなどの要素はすばらしい。いわば本作はアクションゲームやアドベンチャーゲームといった既存のジャンルにおさまるものではなく、数少ない「黒澤ゲーム」であり、「SAMURAIゲーム」なのだ。あえて日本人受けする邦題をつけるのではなく、原題の『Trek to Yomi』のまま日本で発売したのも、そうした狙いがあってのことだろう。逆に日本からも新しいチャンバラゲームが世界に向けてリリースされることを願ってやまない。

主な受賞歴:なし
Metacriticスコア:71

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Steam『Trek to Yomi』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1370050/Trek_to_Yomi/?l=japanese
An Interview with Trek to Yomi Creator Leonard Menchiari
https://seasonedgaming.com/2022/03/22/an-interview-with-trek-to-yomi-creator-leonard-menchiari/
PS5™/PS4®『Trek to Yomi』──黒澤明監督にインスピレーションを受けた本作のビジュアルに迫る!
https://blog.ja.playstation.com/2022/05/04/20220504-trektoyomi/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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