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『CARRION』ホラーゲームにおけるサウンドデザインとフォーリーの関係性【インディーゲームレビュー 第80回】
ゲーム制作と映画制作の共通点にサウンドの重要性がある。中でもホラーゲームは音がもう一つの主役だと言えるだろう。異星生物となって研究所から脱出する『CARRION』もまた、サウンドの演出に優れたホラーゲームだ。
もっとも、個々の楽曲がどれだけ優れていても、使い方が下手では魅力も半減する。楽曲だけでなく、効果音の使い方も重要だ。中でもホラー映画は音の力が重要で、もう一つの主役といってもいいほどだ。このことはホラー映画を見ながら、画面と音を消し比べてみればわかる。名作ホラー映画は音を聞くだけで怖い。逆に音を消して画面だけを見ると、とたんに滑稽に感じられるはずだ。
今回レビューする『CARRION』もまた、音の力が十二分にいかされたタイトルだ。主人公は赤黒い触手が毛糸の玉のように絡まった生命体で、ゲームの目的は研究施設から脱走すること。施設は迷路状になっていて、研究員や警備員らが立ちふさがる。見た目は恐ろしげな主人公だが、意外と打たれ弱い。そのため相手の死角から不意打ちをしたり、姿を透明にして近づいたりと、あの手、この手で乗り越えていくのだ。
このように本作は、普段は敵側の存在であるモンスターを操作して、人間を血祭りに上げていく「逆ホラー(リバースホラー)」ゲームだ。ゴジラやウルトラ怪獣が子どもたちの人気を集めるように、モンスターは退屈な社会秩序を破壊するトリックスターであり、時にはヒーロー以上の人気を誇る。本作はそんな「異形好き」に最適なタイトルだ。ゲームを進めるうちに、なるほどホラー映画の怪物とはこのようなものかと、さらなる理解が進むだろう。
同シリーズはRebellion Developmentsが開発し、アタリ・ジャガー向けに1994年に発売されたFPSが原点で、宇宙船内を舞台に海兵隊・エイリアン・プレデターを選んでプレイすることができた。モンスターになって人間を狩るというユニークな体験が、本作の原点になっているのだ。
もっとも、『CARRION』では「人間を狩る」体験はそのままに、ゲームシステムが3DのFPSから2Dのアクションゲームに変更されている。中でも触手を動かしながら、まるで重力を無視するかのように、建物の中を自由自在に移動できるのは本作ならではの体験だ。この移動システムが大きな発明で、本作のキモだと言えるだろう。
その上で本作では音による演出が高い効果を上げている。触手が床や壁を叩きつける音、クリーチャーのざわめき、研究員の悲鳴、不気味な雰囲気を煽るダークな環境音や、時折流れる音楽などだ。ゲームならではのインタラクティブサウンドが、随所に感じられる内容になっている。
この特徴的な音の演出を実現するために、制作チームは2つの興味深い選択を行った。第一に映像と音楽のミスマッチだ。本作のグラフィックはドット絵ベースのレトロゲーム調で、いわゆる「ピコピコ音」と揶揄される、チップチューンサウンドがよく似合う。これに対して実際の音はリアル調で、AAAゲーム的ともいえるものだ。
これについてChomicki氏はインタビューで「ゲームのビジュアルがレトロなのに、サウンドもレトロなチップチューンで作られていたら、たぶんそんなにうまくいかないと思うんです。そのためサウンドデザインは、間違いなくAAAの雰囲気が強いと思います」と回答している。
ここから連想されるのは、映画『スター・ウォーズ』のサウンドトラックだ。同作でSF映画にもかかわらず、伝統的なオーケストラサウンドが採用されたのは周知の通りだ。
もっとも、『スター・ウォーズ』が公開された1970年代は、アメリカン・ニューシネマのムーブメントを受けて、オーケストラサウンドは古典的と見なされる風潮があった。これに対して作曲家のジョン・ウィリアムズは「宇宙を舞台にした英雄の物語を描くのならば、フルオーケストラのオリジナルスコアでやるべきだ」と提案し、映画史に残る名スコアの数々を生みだした。映像と音楽のミスマッチが世界観を大いに広げることに貢献したのだ。
もっともフォーリーサウンドでは、実際には存在しない「それらしい音」を創り出すこともある。「剣の抜刀をスコップを摺り合わせる音で表現する」「膨らませたハンカチを叩くと大砲の音に聞こえる」などだ。これらは、ふだん何気なく耳にしている音だからこそ、上手く活用すると高い効果を生み出すことができる。
再びインタビューを引用しよう。「サウンドのほとんどは、サウンドデザイナーが自分たちで録音したもので、外部ライブラリはほとんど使用していません。例えば触手の音は、サウンドデザイナーがUSBケーブルを引っ張った時の音や、振り回したときの風切り音なんです」
他にガラスを破壊したり、果物を破壊したり、人間の声や動物の鳴き声が加工して使われたりもしている。こうした何十種類にもおよぶ効果音が、サウンドエンジンのFMODに取り込まれ、レイヤー上に登録された上で、ゲームの進行に合わせてインタラクティブに再生される仕組みだ。
「さまざまなホラー映画の古典からインスピレーションを受けました。『エイリアン』のミニマルなシンフォニックサウンドや、ジョン・カーペンターの残忍なシンセサウンドはその一つです。中でも『遊星からの物体X』は好例ですね。
ホラー映画以外の影響もあります。クリシュトフ・ペンデレツキ(筆者注:ポーランドの作曲家・指揮者)や、彼のシンフォニーにみられるモダンなアプローチなどです。実際は、これはサウンドトラックの核となるインスピレーションの一つになりました。そのため、通常のメロディに沿っていない、奇妙なチェロの演奏などがたくさん入っています(中略)。サウンドデザインと音楽の両方に非常に注意を払ったので、チームの半分がその作業に専念していました」(インタビューより)
もっとも、近年のゲーム開発ではフォーリーサウンドではなく、効果音ライブラリを使用するケースが多い。収録や制作の手間を省くためで、開発規模が小さいインディーゲームでは特にそうだ。だからこそ、フォーリーサウンドが多用されるゲームは、それだけでユニークな存在になり得る。
また、フォーリーサウンドの収録や制作には遊び心が必要だ。開発室でUSBケーブルを振り回しながら録音している様子を想像してみて欲しい。それだけで笑いがこみ上げてこないだろうか。効果音を一つ作るだけで、チームの活性化や一体感に貢献できるのだ。
映画監督の押井守は「映画の半分は音である」と発言している。それに則して言えば、『CARRION』の魅力の半分はサウンド由来だと言えるだろう。中でもフォーリーサウンドの効果は秀逸だ。インディーゲームならではの手作り感の良さを今に伝えるタイトルになったのではないだろうか。
STEAM『CARRION』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/953490/CARRION/?l=japanese
Krzysztof Chomicki Interview: Carrion
https://screenrant.com/carrion-game-krzysztof-chomicki-interview/
サウンドトラック考証
http://www.nexus-s.com/sw/soundtrack/soundtrack.html
[Shureマイキングセミナー]Vol.03 アイディアが勝負!フォーリーサウンド制作
ホラー映画における音の重要性
出典があやふやで恐縮だが、映画監督の巨匠スティーブン・スピルバーグは「監督は涙を観客の瞳まで持ってくるが、実際に涙を流させるのは音楽の力だ」と発言している。もっとも、個々の楽曲がどれだけ優れていても、使い方が下手では魅力も半減する。楽曲だけでなく、効果音の使い方も重要だ。中でもホラー映画は音の力が重要で、もう一つの主役といってもいいほどだ。このことはホラー映画を見ながら、画面と音を消し比べてみればわかる。名作ホラー映画は音を聞くだけで怖い。逆に音を消して画面だけを見ると、とたんに滑稽に感じられるはずだ。
今回レビューする『CARRION』もまた、音の力が十二分にいかされたタイトルだ。主人公は赤黒い触手が毛糸の玉のように絡まった生命体で、ゲームの目的は研究施設から脱走すること。施設は迷路状になっていて、研究員や警備員らが立ちふさがる。見た目は恐ろしげな主人公だが、意外と打たれ弱い。そのため相手の死角から不意打ちをしたり、姿を透明にして近づいたりと、あの手、この手で乗り越えていくのだ。
このように本作は、普段は敵側の存在であるモンスターを操作して、人間を血祭りに上げていく「逆ホラー(リバースホラー)」ゲームだ。ゴジラやウルトラ怪獣が子どもたちの人気を集めるように、モンスターは退屈な社会秩序を破壊するトリックスターであり、時にはヒーロー以上の人気を誇る。本作はそんな「異形好き」に最適なタイトルだ。ゲームを進めるうちに、なるほどホラー映画の怪物とはこのようなものかと、さらなる理解が進むだろう。
グラフィックはレトロ調でもサウンドはAAAスタイル
本作を開発したのはポーランドのインディーゲームデベロッパー、Phobia Game Studioだ。ゲームデザイナー兼レベルデザイナーをつとめたKrzysztof Chomicki氏はゲームメディアのインタビューで「2000年代前半にリリースされた『エイリアンVSプレデター』シリーズに影響を受けた」と語っている。同シリーズはRebellion Developmentsが開発し、アタリ・ジャガー向けに1994年に発売されたFPSが原点で、宇宙船内を舞台に海兵隊・エイリアン・プレデターを選んでプレイすることができた。モンスターになって人間を狩るというユニークな体験が、本作の原点になっているのだ。
もっとも、『CARRION』では「人間を狩る」体験はそのままに、ゲームシステムが3DのFPSから2Dのアクションゲームに変更されている。中でも触手を動かしながら、まるで重力を無視するかのように、建物の中を自由自在に移動できるのは本作ならではの体験だ。この移動システムが大きな発明で、本作のキモだと言えるだろう。
その上で本作では音による演出が高い効果を上げている。触手が床や壁を叩きつける音、クリーチャーのざわめき、研究員の悲鳴、不気味な雰囲気を煽るダークな環境音や、時折流れる音楽などだ。ゲームならではのインタラクティブサウンドが、随所に感じられる内容になっている。
この特徴的な音の演出を実現するために、制作チームは2つの興味深い選択を行った。第一に映像と音楽のミスマッチだ。本作のグラフィックはドット絵ベースのレトロゲーム調で、いわゆる「ピコピコ音」と揶揄される、チップチューンサウンドがよく似合う。これに対して実際の音はリアル調で、AAAゲーム的ともいえるものだ。
これについてChomicki氏はインタビューで「ゲームのビジュアルがレトロなのに、サウンドもレトロなチップチューンで作られていたら、たぶんそんなにうまくいかないと思うんです。そのためサウンドデザインは、間違いなくAAAの雰囲気が強いと思います」と回答している。
ここから連想されるのは、映画『スター・ウォーズ』のサウンドトラックだ。同作でSF映画にもかかわらず、伝統的なオーケストラサウンドが採用されたのは周知の通りだ。
もっとも、『スター・ウォーズ』が公開された1970年代は、アメリカン・ニューシネマのムーブメントを受けて、オーケストラサウンドは古典的と見なされる風潮があった。これに対して作曲家のジョン・ウィリアムズは「宇宙を舞台にした英雄の物語を描くのならば、フルオーケストラのオリジナルスコアでやるべきだ」と提案し、映画史に残る名スコアの数々を生みだした。映像と音楽のミスマッチが世界観を大いに広げることに貢献したのだ。
フォーリーサウンドが貢献した記憶に引っかかる効果音
また、本作の効果音制作にはフォーリーサウンドが多用されている。「映画やドラマにおいて、撮影時に録音された音と置き換えるために、登場人物の行動や周囲の環境に起因する音を別で録音した音、効果音」(Wikipediaより)のことで、役者の足音、衣擦れ、アクセサリーの音などが代表例だ。もっともフォーリーサウンドでは、実際には存在しない「それらしい音」を創り出すこともある。「剣の抜刀をスコップを摺り合わせる音で表現する」「膨らませたハンカチを叩くと大砲の音に聞こえる」などだ。これらは、ふだん何気なく耳にしている音だからこそ、上手く活用すると高い効果を生み出すことができる。
再びインタビューを引用しよう。「サウンドのほとんどは、サウンドデザイナーが自分たちで録音したもので、外部ライブラリはほとんど使用していません。例えば触手の音は、サウンドデザイナーがUSBケーブルを引っ張った時の音や、振り回したときの風切り音なんです」
他にガラスを破壊したり、果物を破壊したり、人間の声や動物の鳴き声が加工して使われたりもしている。こうした何十種類にもおよぶ効果音が、サウンドエンジンのFMODに取り込まれ、レイヤー上に登録された上で、ゲームの進行に合わせてインタラクティブに再生される仕組みだ。
「さまざまなホラー映画の古典からインスピレーションを受けました。『エイリアン』のミニマルなシンフォニックサウンドや、ジョン・カーペンターの残忍なシンセサウンドはその一つです。中でも『遊星からの物体X』は好例ですね。
ホラー映画以外の影響もあります。クリシュトフ・ペンデレツキ(筆者注:ポーランドの作曲家・指揮者)や、彼のシンフォニーにみられるモダンなアプローチなどです。実際は、これはサウンドトラックの核となるインスピレーションの一つになりました。そのため、通常のメロディに沿っていない、奇妙なチェロの演奏などがたくさん入っています(中略)。サウンドデザインと音楽の両方に非常に注意を払ったので、チームの半分がその作業に専念していました」(インタビューより)
もっとも、近年のゲーム開発ではフォーリーサウンドではなく、効果音ライブラリを使用するケースが多い。収録や制作の手間を省くためで、開発規模が小さいインディーゲームでは特にそうだ。だからこそ、フォーリーサウンドが多用されるゲームは、それだけでユニークな存在になり得る。
また、フォーリーサウンドの収録や制作には遊び心が必要だ。開発室でUSBケーブルを振り回しながら録音している様子を想像してみて欲しい。それだけで笑いがこみ上げてこないだろうか。効果音を一つ作るだけで、チームの活性化や一体感に貢献できるのだ。
映画監督の押井守は「映画の半分は音である」と発言している。それに則して言えば、『CARRION』の魅力の半分はサウンド由来だと言えるだろう。中でもフォーリーサウンドの効果は秀逸だ。インディーゲームならではの手作り感の良さを今に伝えるタイトルになったのではないだろうか。
STEAM『CARRION』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/953490/CARRION/?l=japanese
Krzysztof Chomicki Interview: Carrion
https://screenrant.com/carrion-game-krzysztof-chomicki-interview/
サウンドトラック考証
http://www.nexus-s.com/sw/soundtrack/soundtrack.html
[Shureマイキングセミナー]Vol.03 アイディアが勝負!フォーリーサウンド制作
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