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『アイザックの伝説 アフターバース』驚異のロングランを続ける伝説のインディーゲーム【インディーゲームレビュー 第85回】
デジタル流通の進展と共にインディーゲームの二極化が進んでいる。リリース直後に市場に埋もれてしまうものもあれば、何年にもわたって売れ続ける長寿シリーズも登場し始めた。2011年より始まった『アイザックの伝説(The Binding of Isaac)』シリーズもその一つで、インディーゲームの可能性を示している。
この例に限らず、近年ゲームの商品寿命が伸びる傾向にある。背景にあるのがデジタル流通の進展と、ゲーム自体の完成度の高まりだ。パッケージゲームの全盛期、ゲームは生鮮食料品に例えられた。発売後、数週間で売上が落ちるのが一般的で、数ヶ月もすればワゴンセール行きというタイトルも少なくなかった。ゲームの進化はグラフィックの進化と同義語で、毎年のように表現力が向上していった。今では考えられないほど、「新しさ」に価値があったのだ。
しかし、今では最新作と数年前のゲームが、ストアで並列して販売されるようになった。ゲーム文化が成熟し、新旧タイトルが並列で評価される時代になったのだ。今回とりあげる『アイザックの伝説』シリーズも同様で、オリジナル版がFlashゲームとしてリリースされたのは2011年のことだ。そこからPC、コンソール、モバイルゲームと移植を重ねながら、さまざまなDLC発売が続けられている。新作DLC『The Binding of Isaac: Repentance』も2021年1月1日にリリース予定で、そのロングランぶりに改めて驚かされる。
新作DLC『The Binding of Isaac: Repentance』
ゲームの特徴はSFC版『ゼルダの伝説』とローグライクのマッシュアップに、キリスト教的な宗教観を織り交ぜた点だ(本作のプロトタイプはゲームジャムで開発されている。マッシュアップという点が実にゲームジャム的だ)。タイトルの「アイザック」とは旧約聖書に登場する「イサク」の英語読みであり、ストーリーも「イサクの燔祭」をベースにしている。Wikipediaによると、これにはマクミレン氏の宗教的な育ちが関係しているという。個人的な体験がゲームとして昇華されているのだ。
主人公のアイザックは母子家庭で暮らす少年だ。ある時、母親がテレビの宗教番組から神の啓示を受け、アイザックの衣服と玩具を剥ぎ取り、部屋に閉じ込め、ついには生贄にすることを決意する。アイザックは地下室に逃げ込み、毎回形を変えるダンジョンでエネミーと戦っていくという筋立てだ(ラスボスの一人として母親も登場する)。これらの意味は「【考察】Binding of Isaac Afterbirth+ のストーリーはそもそも何だ?」に詳しいので、参考にすると良いだろう。
※なお、Steamではオリジナル版と『リバース』が共に販売されている。『リバース』は二人協力プレイ可能、ゲームパッド対応、DLC対応など、さまざまなバージョンアップがなされているので、あえてオリジナル版を購入する意味は薄いと思われる。
手描き風でヘタウマ感あふれる本作のイベントシーン
最大のポイントは登場するアイテムの種類と、その組み合わせ方が尋常ではない点だ。オリジナル版『アイザック』で100種類以上、『リバース』で400種類以上、そしてDLCの『アフターバース(The Binding of Isaac: Afterbirth)』では500種類以上にも及ぶ。アイテムは習得すると自動的に効果をもたらすものから、爆弾のように使用すると消えるもの、オプション機のように自分につきそいながら、敵を攻撃してくれるものなど4種類があり、組み合わせ方次第でとてつもない威力を発揮するものもある。
しかし、本作は多くのローグライクゲームと同じく、ゲームオーバー時に全アイテムがリセットされる。そのためアイテムの組み合わせが引き起こすゲームバランスの崩壊が致命傷にはなっていない。むしろ適度なバランスの崩壊が本作の味となり、中毒性の源泉になっているのだ。一方で経験知的な要素もないため、序盤の取っつきが悪い。アイテムの効果になれないうちは、何度も死にまくることになるのだ。チュートリアル的なステージが存在しないことも、難易度を上げる遠因になっている。
そのかわり中盤以降は遊べば遊ぶほどコクが出てくる。そのため本作では、全11種類のプレイヤーキャラクターと、全16種類のエンディングを用意して、繰り返しプレイするモチベーションとしている。エンディングも細切れで、すべてクリアしてもモヤモヤ感が残る、考察の余地を多分に残すものだ。スルメのように噛めば噛むほど味が出る作りに徹しているのだ。このように本作は対象ユーザーをハードコアに振り切ることで、欠点を長所に変換することに成功している。
ただし『アイザックの伝説』と『リバース』では日本語対応が行われておらず、アイテムの効果がわかりにくい。これが『アフターバース』を購入すると日本語が選べるようになり、遊びやすさが大きく変わる。ただし、『アフターバース』をインストールすると難易度が跳ね上がるうえ、アンインストールも困難という問題がある。もともと高難易度のゲームなので、個人的には最初から『リバース』と『アフターバース』のセットで遊ぶことをお勧めしたい。
日本語対応が行われたことで遊びやすさが格段に向上した
興味深いのは『アイザックの伝説』シリーズが同一の世界観でIP展開を進めようとしている点だ。2019年11月には初のスピンオフゲーム『The Legend of Bum-Bo』をリリースして、ファンを驚かせた。ローグライクは同様だが、本作はツインスティックシューターではなくアクションパズルゲームで、ファン層を開拓したいという意図が感じられる。ストーリー面では本編の一か月前のエピソードとなっており、本編を知らなくても楽しめる仕掛けだ。
これはインディーゲームでは異例の展開だ。一般的にインディーゲーム開発者はオリジナルにこだわる例が多く、ディスコグラフィにも一貫性がない場合が多い。マクミレン氏も同様で、これまで『スーパーミートボーイ』『アイザックの伝説』『The End Is Nigh』と異なるIPを立ち上げている。その中でも、最も成功しているIPが『アイザックの伝説』だ。このIPに対して、よりカジュアルなゲームを投入した意図について、マクミレン氏はインタビューで次のように語っている。
「最初はやりたくなかったんですが、構想を練っていたときに、一緒に仕事をしていた人が、冗談ついでにやってみたらどうかと半ば強引に誘ってくれたんです。『あなたが取り組んでいるものが何であれ、アイザックのIPをつけて即席の成功にしてしまえばいいじゃないか』というようなものでした。正直、それまで考えたこともなかったのですが、一度考えてみるとアイデアがどんどん湧いてきました。アイザックのストーリーに文脈を加え、世界に深みを持たせるには最適な方法だと感じました」
当然ながら、本作で広げられた世界観は新作DLC『Repentance』や、今後のIP展開にも影響を与えていくと考えられるだろう。今後の『アイザックの伝説』シリーズに注目していきたい。
Steam『The Binding of Isaac』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/113200/The_Binding_of_Isaac/
Steam『The Binding of Isaac: Rebirth』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/250900/The_Binding_of_Isaac_Rebirth/
Steam『The Binding of Isaac: Afterbirth』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/401920/The_Binding_of_Isaac_Afterbirth/
Steam『The Binding of Isaac: Repentance』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1426300/The_Binding_of_Isaac_Repentance/
Steam『The Legend of Bum-Bo』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1148650/The_Legend_of_BumBo/
【考察】Binding of Isaac Afterbirth+ のストーリーはそもそも何だ?
https://ameblo.jp/steam-oboegaki/entry-12369824680.html
Interview: Edmund McMillen & James Interactive talk trash, excrement, puzzles & THE LEGEND OF BUM-BO
https://www.comicsbeat.com/interview-edmund-mcmillen-james-interactive-legend-of-bum-bo/
2020年で10周年を迎えた本作
AAAゲームの代名詞とされる『グランド・セフト・オートV』。開発費とマーケティング費用にゲーム史上最高額の約264億円をかけ、これまでに1億本以上のセールスを誇る超大作ゲームだ。2013年にPlayStation 3とXbox 360で発売され、PS4、Xbox One、PCにも移植展開。2021年にはPS5とXbox Series Xでも発売予定と、三世代のゲーム機にわたって発売される史上初のタイトルになることは確実だ。MMORPGならともかく、パッケージゲームでは過去に類を見ないタイトルだろう。この例に限らず、近年ゲームの商品寿命が伸びる傾向にある。背景にあるのがデジタル流通の進展と、ゲーム自体の完成度の高まりだ。パッケージゲームの全盛期、ゲームは生鮮食料品に例えられた。発売後、数週間で売上が落ちるのが一般的で、数ヶ月もすればワゴンセール行きというタイトルも少なくなかった。ゲームの進化はグラフィックの進化と同義語で、毎年のように表現力が向上していった。今では考えられないほど、「新しさ」に価値があったのだ。
しかし、今では最新作と数年前のゲームが、ストアで並列して販売されるようになった。ゲーム文化が成熟し、新旧タイトルが並列で評価される時代になったのだ。今回とりあげる『アイザックの伝説』シリーズも同様で、オリジナル版がFlashゲームとしてリリースされたのは2011年のことだ。そこからPC、コンソール、モバイルゲームと移植を重ねながら、さまざまなDLC発売が続けられている。新作DLC『The Binding of Isaac: Repentance』も2021年1月1日にリリース予定で、そのロングランぶりに改めて驚かされる。
新作DLC『The Binding of Isaac: Repentance』
ゼルダとローグライクのマッシュアップを宗教観でパッケージ
本作の開発を主導したのは『スーパーミートボーイ(Super Meat Boy)』の作者として知られるエドモンド・マクミレン氏だ。2010年にリリースされた同作は多くのゲーマーに愛され、2012年にミリオンセラーを達成するなど、インディーゲーム初期の大ヒット作となった。オリジナル版はこの成功を受けてリリースされ、PC版が登場すると、前作同様に大ヒットを記録。2014年に発売されたリメイク版『アイザックの伝説 リバース(The Binding of Isaac: Rebirth)』(※)とあわせて、500万本を越える売上を記録している。ゲームの特徴はSFC版『ゼルダの伝説』とローグライクのマッシュアップに、キリスト教的な宗教観を織り交ぜた点だ(本作のプロトタイプはゲームジャムで開発されている。マッシュアップという点が実にゲームジャム的だ)。タイトルの「アイザック」とは旧約聖書に登場する「イサク」の英語読みであり、ストーリーも「イサクの燔祭」をベースにしている。Wikipediaによると、これにはマクミレン氏の宗教的な育ちが関係しているという。個人的な体験がゲームとして昇華されているのだ。
主人公のアイザックは母子家庭で暮らす少年だ。ある時、母親がテレビの宗教番組から神の啓示を受け、アイザックの衣服と玩具を剥ぎ取り、部屋に閉じ込め、ついには生贄にすることを決意する。アイザックは地下室に逃げ込み、毎回形を変えるダンジョンでエネミーと戦っていくという筋立てだ(ラスボスの一人として母親も登場する)。これらの意味は「【考察】Binding of Isaac Afterbirth+ のストーリーはそもそも何だ?」に詳しいので、参考にすると良いだろう。
※なお、Steamではオリジナル版と『リバース』が共に販売されている。『リバース』は二人協力プレイ可能、ゲームパッド対応、DLC対応など、さまざまなバージョンアップがなされているので、あえてオリジナル版を購入する意味は薄いと思われる。
手描き風でヘタウマ感あふれる本作のイベントシーン
遊べば遊ぶほど味がでるコアゲーマー向けスルメゲーム
もっとも、本作が愛されているのは世界観やストーリーではなく、中毒性の高いゲームシステムだろう。本作のベースはツインスティックシューターで、固定画面のステージ(一部大型ステージあり)を進みながら、涙を飛ばしてエネミーを倒していく。ステージ上の全エネミーを倒したら扉のロックが解除され、次のステージに進める仕組みだ。ランダムに出現するライフやアイテムなどを入手すれば、より有利にゲームが進められる。ラスボスを倒すと階段が出現し、階層を進むことができる。最大のポイントは登場するアイテムの種類と、その組み合わせ方が尋常ではない点だ。オリジナル版『アイザック』で100種類以上、『リバース』で400種類以上、そしてDLCの『アフターバース(The Binding of Isaac: Afterbirth)』では500種類以上にも及ぶ。アイテムは習得すると自動的に効果をもたらすものから、爆弾のように使用すると消えるもの、オプション機のように自分につきそいながら、敵を攻撃してくれるものなど4種類があり、組み合わせ方次第でとてつもない威力を発揮するものもある。
しかし、本作は多くのローグライクゲームと同じく、ゲームオーバー時に全アイテムがリセットされる。そのためアイテムの組み合わせが引き起こすゲームバランスの崩壊が致命傷にはなっていない。むしろ適度なバランスの崩壊が本作の味となり、中毒性の源泉になっているのだ。一方で経験知的な要素もないため、序盤の取っつきが悪い。アイテムの効果になれないうちは、何度も死にまくることになるのだ。チュートリアル的なステージが存在しないことも、難易度を上げる遠因になっている。
そのかわり中盤以降は遊べば遊ぶほどコクが出てくる。そのため本作では、全11種類のプレイヤーキャラクターと、全16種類のエンディングを用意して、繰り返しプレイするモチベーションとしている。エンディングも細切れで、すべてクリアしてもモヤモヤ感が残る、考察の余地を多分に残すものだ。スルメのように噛めば噛むほど味が出る作りに徹しているのだ。このように本作は対象ユーザーをハードコアに振り切ることで、欠点を長所に変換することに成功している。
ただし『アイザックの伝説』と『リバース』では日本語対応が行われておらず、アイテムの効果がわかりにくい。これが『アフターバース』を購入すると日本語が選べるようになり、遊びやすさが大きく変わる。ただし、『アフターバース』をインストールすると難易度が跳ね上がるうえ、アンインストールも困難という問題がある。もともと高難易度のゲームなので、個人的には最初から『リバース』と『アフターバース』のセットで遊ぶことをお勧めしたい。
日本語対応が行われたことで遊びやすさが格段に向上した
インディーゲームのIP展開は成功するか?
『The Legend of Bum-Bo』興味深いのは『アイザックの伝説』シリーズが同一の世界観でIP展開を進めようとしている点だ。2019年11月には初のスピンオフゲーム『The Legend of Bum-Bo』をリリースして、ファンを驚かせた。ローグライクは同様だが、本作はツインスティックシューターではなくアクションパズルゲームで、ファン層を開拓したいという意図が感じられる。ストーリー面では本編の一か月前のエピソードとなっており、本編を知らなくても楽しめる仕掛けだ。
これはインディーゲームでは異例の展開だ。一般的にインディーゲーム開発者はオリジナルにこだわる例が多く、ディスコグラフィにも一貫性がない場合が多い。マクミレン氏も同様で、これまで『スーパーミートボーイ』『アイザックの伝説』『The End Is Nigh』と異なるIPを立ち上げている。その中でも、最も成功しているIPが『アイザックの伝説』だ。このIPに対して、よりカジュアルなゲームを投入した意図について、マクミレン氏はインタビューで次のように語っている。
「最初はやりたくなかったんですが、構想を練っていたときに、一緒に仕事をしていた人が、冗談ついでにやってみたらどうかと半ば強引に誘ってくれたんです。『あなたが取り組んでいるものが何であれ、アイザックのIPをつけて即席の成功にしてしまえばいいじゃないか』というようなものでした。正直、それまで考えたこともなかったのですが、一度考えてみるとアイデアがどんどん湧いてきました。アイザックのストーリーに文脈を加え、世界に深みを持たせるには最適な方法だと感じました」
当然ながら、本作で広げられた世界観は新作DLC『Repentance』や、今後のIP展開にも影響を与えていくと考えられるだろう。今後の『アイザックの伝説』シリーズに注目していきたい。
Steam『The Binding of Isaac』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/113200/The_Binding_of_Isaac/
Steam『The Binding of Isaac: Rebirth』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/250900/The_Binding_of_Isaac_Rebirth/
Steam『The Binding of Isaac: Afterbirth』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/401920/The_Binding_of_Isaac_Afterbirth/
Steam『The Binding of Isaac: Repentance』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1426300/The_Binding_of_Isaac_Repentance/
Steam『The Legend of Bum-Bo』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1148650/The_Legend_of_BumBo/
【考察】Binding of Isaac Afterbirth+ のストーリーはそもそも何だ?
https://ameblo.jp/steam-oboegaki/entry-12369824680.html
Interview: Edmund McMillen & James Interactive talk trash, excrement, puzzles & THE LEGEND OF BUM-BO
https://www.comicsbeat.com/interview-edmund-mcmillen-james-interactive-legend-of-bum-bo/
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