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『Stacklands』“インディーゲームのサブスク”という新しい開発スタイル【インディーゲームレビュー 第126回】

目次
  1. TGS2022でも注目を集めたインディーゲームの革命集団
  2. インディーゲームによるゲームのサブスクリプションサービス
4.99ドル(=520円)のシンプルなゲームが革命を起こしつつある。テーブルトップスタイルの村づくりカードシム『Stacklands』と、開発チームのSokpop Collectiveだ。毎月コンスタントに新作ゲームをリリースし続ける脅威の開発スタイルが意味するものとは何か。


TGS2022でも注目を集めたインディーゲームの革命集団


ゲーム開発には時間がかかる……この常識を覆しているチームがオランダに存在する。4人のインディーゲーム開発者集団、Sokpop Collectiveだ。1人が1本ずつ4カ月でゲームを作り、それを毎月リリースするスタイルで、インディーゲーム界に旋風を巻き起こしている。中でも2022年4月にリリースされた村づくりカードシム『Stacklands』は45万本の大ヒット作(※1)となり、現在も売上を更新中だ。「東京ゲームショウ2022」のオランダブースにも出展し、高い注目を集めた。

TGS2022出展風景(出典:https://steamcommunity.com/app/1948280/allnews/

ゲームはテーブルトップスタイルのカードシムで、カードを組み合わせてさまざまなアクションを行い、新しいカードを生み出していく。「ベリーの木」カードと「村人」カードを組み合わせると「ベリーの実」カードが収穫できたり、「土壌」カードと「村人」カード、そして「材木」カードと「石」カードを2枚ずつ組み合わせると「農園」カードが生成できたりといった具合だ。

ちなみに「農園」カードには「ベリーの実」カードなどの農作物カードを載せると、自動的に農作物カードを複製してくれる。あまったカードを売却してカードパックを購入し、新たなカードを入手することも可能だ。「武器」カードを作って村人を強化させたり、「家」カードを作って子孫を増やしたり、カードパックから新たなカードの組み合わせ方の情報を得たりすることもできる。このようにして村を発展させていくのだ。

もっとも、無尽蔵にカードを作っていくと、すぐに行き詰まる。毎月1回、村人に「食料」カードを与える必要があるからだ。「食糧」カードが不足すると、「村人」カードが餓死してしまう。「村人」カードがなくなるとゲームオーバーだ。他に約10カ月に1回、「不思議なポータル」カードが出現し、「モンスター」カードが湧き出してくる。「モンスター」カードで「村人」カードが全員殺害されてもゲームオーバーになる。

なお、ゲームはリアルタイムで進行し、前述のように「月」単位で区切りがつけられる。ゲーム中に集めたカードリストは次のゲームに引き継がれるので、次回からはより効率良くゲームが進められる仕組みだ。カードは200枚以上、クエストは80種類以上があり、1回のプレイ時間は5~6時間程度だ。カードゲームを遊ぶような感覚で気軽に楽しめることと、絶妙なゲームバランスの両立が人気の秘密だろう。

ただし、インディーゲームあるあるで、チュートリアルに乏しい。そのためゲームに慣れないうちは、すぐにゲームオーバーになる可能性がある。まず「材木」カードに「村人」カードを載せて棒カードを作り、売却して……といった具合に、序盤にある定石に気がつくか否かで本作の評価は大きく変わる(気づかなければ速攻ゲームオーバーだ)。この程度のガイダンスは、あっても良かったように思う。



インディーゲームによるゲームのサブスクリプションサービス


このように、すでに高い評価を受けている本作だが、より注目すべきはゲームの開発スタイルだろう。いくつかのインタビュー記事によると、開発元のSokpop Collectiveは大学卒業したての若者4人が2018年に結成したユニットで、毎月1本を目安に新作ゲームのリリースを続けている。ソロゲーム開発者が4人集まり、各自が好きなゲームを開発するスタイルで、売上も4人で均等に分割しているのだという。

こうした開発スタイルを支援しているのが、アーティストの活動をクラウドファンディングで支援するPatreon.comだ。Patreon.comに登録したアーティストはサイト上で寄付を募ることができる。現在、Sokpop Collectiveは月3ドルから登録できるサイトを運営しており、5年間で100本以上のゲームがリリースされ、2731人の登録者から、毎月8834ドル(約130万円)以上の定期収入を得ている(※2)。

いわばSokpop CollectiveはXbox Game Passなどと同じく、「ゲームのサブスクリプションサービス」を行っていることになる。そのうえで、Patreon.comで定期収益を得つつ、Steamでもゲームを販売して新規ファンを獲得するといった具合に、両者で補完関係を築いているのだ。インディーゲーム開発者が一人でゲームを作って生活していくためのエコシステムが成立していることに、あらためて驚かされる。

▲PatreonにおけるSokpop Collectiveの支援ページ

いわゆる「ゲーム開発の民主化」と共に、ゲームの開発チームの規模は年々小さくなっている。これは日本も海外も同じで、「ゲーム作家」の時代が到来しようとしているのだ。一方でゲーム開発は孤独な作業であり、ヒット作の有無による浮き沈みも激しい。こうした中、Sokpop Collectiveが示している「ソロ開発者同士のユニット」は漫画業界におけるトキワ荘のようでもあり、興味深い。

もっとも、売上管理に代表される事務作業は、チームが成長するにつれて負荷が増していく。そこでマネージャーを加え、バックオフィスを整備していくと、次第に「普通の企業」になっていく。そこからスピンアウトしたクリエイターが新たなインディーになり……といった具合に、組織の栄枯盛衰にはパターンがある。Sokpop Collectiveが今後どのような道筋を辿るか、彼らのゲームとあわせて注目していきたい。

※1 How one of Sokpop's almost 100 (!) Steam games became a big hitより
※2 2022年10月21日現在/PatreonにおけるSokpop Collectiveの支援ページより

主な受賞歴:Dutch Game Awards 2022 (Best Innovation)
Metacriticスコア:なし

Steam 『Stacklands』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1948280/Stacklands/
Sokpop Collective 公式サイト
https://sokpop.co/
PatreonにおけるSokpop Collectiveの支援ページ
https://www.patreon.com/sokpop
How one of Sokpop's almost 100 (!) Steam games became a big hit
https://www.gamedeveloper.com/blogs/how-one-of-sokpop-s-almost-100-steam-games-became-a-big-hit
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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