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『スキタイのムスメ』にみるストレスと開放のループ構造、そしてパズルのセンス【インディーゲームレビュー 第12回】

 
エンタテインメントにはストレスと開放という共通のループ構造がみられる。(参考:『911 Operator』ストレスループでつながる現実社会とゲーム【インディーゲームレビュー 第14回】

ポイント&クリックタイプのアドベンチャーゲーム『スキタイのムスメ:音響的冒険劇』も同様だ。その中でもキーファクターとなるパズルの作り込みに本作ならではのセンスが光っている。

ゲームの構造分析論

前回とりあげた『Expand』では、「1.操作できるもの」「2.操作できないもの」「3.両者の関係性」という観点から構造論的なレビューを試みた。今回は「1.ストレス」「2.キーファクター」「3.解放」という別の観点からレビューをしてみたい。取り上げるのはポイント&クリックタイプのアドベンチャーゲーム『スキタイのムスメ:音響的冒険劇』だ。ドット絵スタイルの美しいグラフィックと個性的なサウンドで高い評価を得たタイトルである。

「怪獣が出現し街を破壊(ストレス)」→「ウルトラマンに変身」→「怪獣が倒され、街に平和が戻る(開放)」といった具合に、多くのエンタテインメントには「ストレスと開放」という共通構造がみられる。キーファクターである「変身」を「印籠」や「桜吹雪」に変えれば時代劇になる。「仕事でストレスがたまる」→「給料日」→「飲み会で発散」など、現実社会にも応用できる概念だ。

右に進みたいが道がない。どのように橋を架けるか……本作の典型的なパズルシーンだ https://vimeo.com/20379529

キーファクターをつかさどるパズルの存在

それでは本作では、この構造がどのように適用されるだろうか。本作に限らずアドベンチャーゲームの多くはストーリーを進めることがゲームの主要な目的となる。その上でパズルを散りばめ、ストーリーの消費速度を調整するのが基本デザインだ。つまり「ストレス:ストーリーが先に進められない」→「キーファクター:パズルを解く」→「開放:ストーリーが先に進む」というループを繰り返していくことになる。

本作のパズルはポイント&クリックというゲームの内容に即して、画面のさまざまな地点をクリックすることが鍵になっている。「森の精霊」が潜む地点でスキタイのムスメを瞑想状態(ソーサリーモード)にすると、世界のさまざまな情報が視覚的に見られるようになる。ここで関連するポイントをクリックしていくと、森の精霊を天空に返せる。他にもいくつかのパズルがあり、パズルを解くことでストーリーが先に進む構造になっている。

もっとも本作では剣をふるって敵と戦うシーンもあり(これが原題の『Superbrothers: Sword & Sworcery EP』にもつながっている)、後半になるにつれてバトルの比重が高まる。ただし、総じてキーファクター(ゲームの進行を調節し、プレイヤーに快感を与えるキーになる要素)は「森の精霊」をはじめとした、さまざまなパズルだといえる。つまりパズルのデザイン自体がプレイヤーのゲーム体験に大きな影響を与えることになる。


敵キャラクターとのバトル(上)やボス戦(下)など、簡単な戦闘要素もある

難易度ではなくパズルの質を変えるという挑戦

多くのゲームでは複数の「ストレスと開放」のループが組み合わさり、複雑なハーモニーを演出している。この時「ストレスと開放感」を比例させるのがセオリーだ。大きな挑戦(ストレス)には大きな報酬(開放)というわけだ。もっとも本作のようなストーリーゲームでは、「ストレスと開放」が時間軸に沿って並んでいく。そのためストーリー展開に応じてパズルの難度が上昇し、クリア率の低下を招くリスクをはらんでいる。

ちなみに、この構造を逆手に取り、個々のパズルの答えをゲームに同梱したうえで、エピソードの連続性でパズルを提供するゲームもある。過去に紹介した『Rusty Lake: Roots』がそれだ。『Rusty Lake: Roots』では個々のパズルの難度は大きく変化しない。そのためストレスも開放感も一定で、ゲームは淡々と進んでいく。それがかえって全体の世界観を浮き上がらせ、印象深いゲームとすることに成功している。

これに対して本作ではストーリーラインにそってパズルにメリハリをつけ、ストレスと開放のループを刺激的なものにしている。単に画面をクリックさせるだけでなく、マウスでドラッグしたり、背景全体に働きかけたりといった具合だ。中にはPCの時計機能を調整することを促すパズルもある(もちろん、他にも迂回ルートは用意されているが)。このように本作はパズルの難度ではなく、パズルの質を変えることに挑戦しているのだ。

ソーサリーモードで画面をクリックし、反応する部分を探すことがパズルの中心になる

もっともパズルの良し悪しは作り手側のセンスに負うところが大きい(もっといえばユーザーとの相性だ)。実際、「パズルを解かせるためのパズル」になっているゲームも少なくない。そうした中でも本作のパズルは(筆者にとっては)センスが良く、ローカライズベンダーの8-4(ハチノヨン)による良質な日本語版制作とも相まって楽しめた。パズルに対する遊び手側のセンスを磨くためにも、一度プレイしてみてほしい作品だ。

■関連リンク
Steam『スキタイのムスメ:音響的冒険劇』のページ
http://store.steampowered.com/app/204060/Superbrothers_Sword__Sworcery_EP/?l=japanese

【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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