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『The White Door』現実世界に侵食する新感覚アドベンチャーゲーム【小野憲史のインディーゲームレビュー 第87回】

ポイント&クリック型のアドベンチャーゲーム『Rusty Lake』シリーズ。その新機軸が本作『The White Door』だ。ストーリー要素が強化された本作では、ARG(代替現実ゲーム)も実施。ゲームが現実を侵食する新たなスタイルを提示している。


謎が謎を呼ぶ人気シリーズの新機軸

アムステルダム在住のインディーゲーム開発者、Rusty Lakeによる脱出ゲーム『Rusty Lake』シリーズ。『Rusty Lake: Roots』レビューで解説したとおり、本作はクリア動画がウェブ上で公開されている異色のシリーズだ。パズルの解答編が明らかにされているにもかかわらず、多くのプレイヤーを魅了する理由とは何か。それはデビッド・リンチを彷彿とさせるユニークな世界観と、『ツイン・ピークス』ばりの謎が謎を呼ぶ展開で、すでに15作がリリースされている。

そうしたシリーズでも新機軸となったのが本作『The White Door』だ。最大の違いは二画面分割式のゲーム画面と、テキストによるストーリー要素の追加。これにより、他の作品よりも状況や主人公の心情がわかりやすくなっている。日本語ローカライズも良質で、海外作品にもかかわらず、多くの人がプレイできる点も嬉しい。もっとも、ゲームをクリアしても腹落ちせず、もやもやした感じが残る点は健在で、テキストが追加されたぶん、謎が深まったようにも思える。

白一色の現実と色の付いた回想シーンの組み合わせ


主人公は重度の記憶喪失に苦しむ男性、ロバート・ヒルだ。施設でめざめたロバートは規則に従い、洗顔・朝食・診察・記憶トレーニング・夕食・レクリエーション・就寝と、厳格な生活を繰り返していく。この時、洗顔であれば歯ブラシを口にくわえてマウスを左右に動かす、食事は食べ物をマウスでクリックするといった具合に、画面から連想されるアクションが求められる。これがパズルに当たる寸法だ。中には意地悪と思われるパズルもあるが、動画を見れば誰でもクリアできるはずだ。


ゲームは全7日間で構成され、1日ごとに回想シーンが加わる。回想シーンはロバートが施設に収容されるまでの内容が描かれ、恋人のローラとの別れや、仕事でミスを犯して解雇されたりといったエピソードが展開される。ユニークなのは、ここでもストーリーの展開にあわせて適切なマウス操作が求められるなど、インタラクティブノベルといった様相を呈している点だ。施設内は白一色なのに対して、回想シーンはカラーで描かれており、この過去の記憶が本作の重要なテーマになっている。



謎解きを軸とした濃密なユーザーコミュニティ

他のシリーズと同じく、ゲームは数時間程度のボリュームで、クリア動画を見ながら遊べば、数十分程度で終了する。にもかかわらずハマってしまうのは、登場人物の関連性をはじめ、他シリーズとのつながりを自分で考察していく要素があるからだ(本シリーズでは、これこそが真の謎解きのようにも感じられる)。本作を起点にシリーズにハマってしまった一人が、ブログ「主婦ゲーマーのノート」のはなりんさんだ。本作の考察も行われており、シリーズのファンなら必読だろう。

実際、本シリーズの魅力の一つに、自分なりの考察を他人と共有したくなる点がある。Discordの公式チャンネルには、そうした世界中のファンが集まっており、コミュニティを形成している(日本語チャンネルもあり、活発な交流がみられる)。興味深いことに、パズルの質問もチャンネル内で行われていることだ。解答編の動画が用意されているにもかかわらず、そちらは見たくないということだろうか。ユーザーコミュニケーションのデザインを考える上で重要な示唆を与えているように思える。


プロモーションイベントとしてARGも実施

こうしたコミュニティの存在を背景に、本作ではARG(代替現実ゲーム)イベントも行われた。それがリリース直後の2020年1月に実施された『The White Door ARG』だ。

ARGとは現実世界を主な舞台に、Web・Twitter・電話など複数のメディアを組み合わせて実施される体験型ストーリーのこと。時には実際の場所に出向き、そこで新たな手がかりを得たりすることもある。このようにARGはAR(拡張現実)ゲームと混同されるが、まったくの別物となる。

『The White Door ARG』もゲーム中で表示される電話番号にプレイヤーが実際に電話をかけるところからスタートする。そこでは謎のホームページのアドレスが得られ、YouTube動画に誘導される。動画内ではThe White Doorの勤務医、Dr.Hoorn殺害のニュース映像が流れる。ニュースの最後に表示される黒いキューブには暗号が隠され、その暗号を解くと……といった具合だ。

http://mentalhealthandfishing.com/

『The White Door ARG』の目的は、Dr.Hoorn殺害事件の背後に隠されたさまざまな謎を解き明かしていくことだ。もっとも、謎の解明は一筋縄ではいかず、世界中のプレイヤーが情報を共有しながら、集合知で挑むスタイルが一般的だ(日本人にとっては言語の壁もあり、辛いジャンルだ)。ゲームの流れは攻略サイト「The White Door ARG(地下病棟の扉)攻略 シークレットステージ」で追えるので、参考にしてほしい。実に様々な種類の謎が提示されたことがわかるだろう。

本イベントは2020年1月24日に最後の謎がアムステルダムで解き明かされ、エンディングを迎えた。その模様はTwitterに投稿され、日本語でも読める。謎がわかっても、実際に現地に向かうのは別問題だが、多くのプレイヤーは情報収集や謎解きに協力することで、イベントの共通体験を得た形だ。まさに『The White Door』の世界が現実に侵食してきたわけで、脱出ゲームの新たな可能性を示しているといえるだろう。ちなみに、日本で開催されているARGイベントを紹介する「ARG情報局」というサイトもある。

コロナ禍のおり、こうしたライブイベントは実施が困難になっているが、ネット上で完結するなら話は別。次回作でも同様のARGイベントが行われるか否か注目していきたい。


Steam『The White Door』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1145960/The_White_Door/
『Rusty Lake』公式サイト
http://www.rustylake.com/
主婦ゲーマーのノート
https://hanarinblog.com/the-white-door6/
The White Door ARG (地下病棟の扉)攻略 シークレットステージ
https://blog.earthyworld.com/archives/rustylake-thewhitedoor16/
ARG情報局
https://arg.igda.jp/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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