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『CHUCHEL』にみる“ゲーム”と“物語”の折衷点、そしてアドベンチャーゲーム【インディーゲームレビュー 第30回】

ゲームと物語は水と油の存在だ。アドベンチャーゲームの歴史は、この両者を融合させるための、さまざまな挑戦の過程だといえる。絵本風のグラフィックとカートゥーン的なドタバタ劇が楽しい『CHUCHEL』もまた、そうしたゲームの一つだ。


フィンチ家の奇妙な屋敷で起きたこと』で論じたように、ゲームとはプレイヤーに再挑戦を強いるメディアだ。もっとも、そのためにはルールが常に同じでなければならない。事実、コンティニューのたびにゲームのルールが変わるようでは、プレイヤーが過去の経験を活かせないことは明白だろう。プレイヤーは過去の経験から未来を予測し、ゲームを進めていく。だからこそルールの普遍性が求められるのだ。

その一方で、過去の経験とは関係なく未来が展開するメディアがある。物語だ。ゲームと違い物語メディアでは、いつでも語り手が突拍子もない未来を提示できる。実際、受け手の予測を半ば裏切って進行するからこそ、物語は視聴者を引きつけるのだ。このことは本来、物語はゲームと違い、一回性のメディアであることを意味している。意外な展開も何度も繰り返されては興ざめだからだ。

その上でゲームクリエイターは両者を融合させるために、さまざまな挑戦を重ねてきた。その結晶がアドベンチャーゲームだ。本ジャンルにおいて、ゲームクリエイターは再挑戦性を捨てるかわりに、1本のゲームでさまざまな体験をプレイヤーに提供できる。毛玉の主人公チュチェルを操作してチェリーを探す旅に出る、コメディタッチのパズルアドベンチャー『CHUCHEL』もまた、この基本に忠実なゲームの一つだ。

チェリーが食べたいチュチェル。次から次へと邪魔物が現れて……

画面上の仕掛けをクリックしてパズルを解き、チェリーをゲットしよう

本作のストーリーは単純だ。主人公のチュチェルは目の前のチェリーが食べたくてたまらない。しかし、常にさまざまなパズルやミニゲームが立ちふさがる。せっかくこれらをクリアしても、良いところでライバルのケトルをはじめ、さまざまな邪魔が入る。そしてチェリーがいずこかへと持ち去られ、チュチェルは次のステージで新しい課題に挑戦することに……という流れだ。

本作には30種類のエピソードが存在し、そのどれもが独創的で、驚きに満ちている。言い換えれば過去のゲーム体験がまったく通用しない。つまり本作は一話完結のアニメシリーズのように、雑多なエピソードの羅列で構成されており、各々の順番を入れ替えても支障がない。しかも難易度はそれほど高くない。というよりも、かなり低い。進行に詰まってもヒントが表示されるため、多くのユーザーがクリアできるだろう。

このように本作はゲームというより、インタラクティブな絵本といったところだ。それでもプレイヤーを飽きさせないのは、画面をクリックすると、常に斜め上の反応が大量に返ってくるからだ。そのため、ついすべての仕掛けをクリックしてみたくなる。そして、いつの間にか課題がクリアできているという仕掛けだ。ゲームは入力と出力のループ構造で構成されているという原理原則を、改めて思い返させるタイトルだとも言えるだろう。

もう一つのポイントは本作のアートスタイルとサウンドだ。ありとあらゆるアイディアが詰め込めるように、本作の世界観は往年のカートゥーンを彷彿とさせており、クレイアニメーション的なビジュアルが良くマッチしている。本作を開発したAmanita Designはチェコのスタジオで、人形劇アニメの伝統も感じられる。「IGF2018」でビジュアル部門の部門賞を受賞したのも、さもありなんといったところだ。

スプーンを操って卵を割る。プリレンダームービーの塊のように見えるが、実はリアルタイムCGだ

チェリーを巡って争うチュチェル(左)とケトル(右)。アニメ『トムとジェリー』を彷彿とさせるドタバタ劇が繰り広げられる

このように、本作は一見するとカジュアルなパズルゲームのように見える。しかし、ギリギリのところでアドベンチャーゲームに留まっているのは、ストーリーの始点と終点が明確で、ドラマ性があるからだ。多くのハリウッド映画と同じく、本作のストーリーには「主人公はAをめざしてBを試みるが、その望みは果たせず、かわりにCを得る」という構造が存在する。一見雑多にみえる課題も、そのために設計されている。

ちなみに本作の販売価格は約1200円だ。前述の通り本作は一回性が高く、やり込み要素はほとんどない。1200円で数時間というプレイ体験に満足できるか否か、それは人によってまちまちだろう。しかし、こうしたゲームが市場に存在し、高い評価を受けるところに、インディーゲームの豊かさがある。そして、それはAAAタイトルに勝るとも劣らない、一過性の体験を提供しているのだ。

いわゆるAAAタイトルから絶対に出てこない、ユニークで温かみのあるアートスタイル


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■関連リンク
Steam『CHUCHEL』の販売ページ
http://store.steampowered.com/app/711660/CHUCHEL/
ANITAMA DESIGN
http://amanita-design.net/
『CHUCHEL』公式サイト
http://amanita-design.net/games/chuchel.html


【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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