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『Minit』ゲームジャム時代のインディーゲーム開発【インディーゲームレビュー 第46回】

1分間で死ぬ定めの主人公が、呪いを解く手段を求めて世界を冒険する『Minit』。本作はゲームジャムで作られたゲームがベースとなり、世界的なヒットを記録したタイトルだ。ワンアイディアを研ぎ澄まして作られた本作は、ゲームジャム時代を象徴するインディーゲームとなった。


転生モノとアクションRPGの融合

『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』のレビューで論じたように、ゲームはプレイヤーに対して「擬似的な死」を何度も繰り返させるエンタテインメントだ。「死」があるからこそプレイヤーは「生きよう」とする。そして『Life Goes On: Done to Death』のように、「死」を逆手に取ったゲームデザインも生まれてくる。今回取り上げる『Minit』もまた、「死」に対して自覚的なゲームデザインが特徴だ。

本作は剣の呪いで1分後に死ぬ運命を背負ってしまった主人公が、呪いを解く手段を求めて世界を冒険するアクションRPGだ。ゲーム中に実時間で1分間が経過すると、主人公は自動的に死亡し、リスタート地点に戻される。もっとも、その過程でさまざまなアイテムを入手したり、パズルを解いたりすると、新たなセーブポイントやショートカットが登場し、探索範囲が広がる。これを繰り返しながらストーリーを進めていくのだ。

ゲームはトップビュー視点で進行し、オリジナル版『ゼルダの伝説』のように画面単位でスクロールしながら進行する。モノクロのグラフィックや、チップチューンライクなBGMと相まって、ベテランのゲーマーならゲームボーイのタイトルを遊んでいるような錯覚にとらわれるだろう。プレイ時間も短く、だいたい2~5時間でクリアできるほどだ。もっとも、クリア後は寿命が40秒に縮まったハードモードも解禁されるので、長く遊べる。


このように本作を印象づけているのは「1分間で強制リスタート」というユニークなメカニクスと、それを柱にマップ・エネミー・アイテムなどの配置が絶妙に調整されている点だ。実際のところ、「1分間で死ぬ」要素がなければ、本作は小粒で凡庸なアクションRPGでしかない。呪いを解く以外のストーリーについても、ないにひとしい。これほどまでに一つのアイディアで全体のプレイ体験が変わったゲームは近年珍しいだろう。

アイテムを入手する演出にも『ゼルダの伝説』シリーズのオマージュが感じられる

トップビューの固定画面スクロール。いわゆる「ゼルダスクロール」で進行する

ゲームジャムで生まれたアイディアを温め続けた

本作のもう一つの特徴はプロトタイプがゲームジャムで制作されたことだ。2012年9月14日から16日まで、48時間にわたってオンライン上で開催されたゲームジャム「The Adventure Time Game Jam」にオランダのゲーム開発者Kitty CalisとJan Willem Nijmanが参加し、48時間で『Adventure Minute』というアクションRPGを開発した(なお、本作の開発エピソードはインタビュー記事「Minit Interview」に詳しい)。

本ゲームジャムはカートゥーン ネットワークで2010年から2018年まで放映されたファンタジーアニメ『Adventure Time』にちなんで開催された。2人が考えたアイディアは、『Adventure Time』の全エピソードを1分間で終わるミニゲームにするという壮大なもので、ゲームエンジンにGame Makerが使用された。2人の挑戦は時間切れでプロトタイプに終わったが、ゲームは好評を博し、最優秀賞を獲得した(賞品はクロスボウだった)。

2人はこのアイディアを数年間温め続け、フィンランドの作曲家Jukio KallioとドイツのイラストレーターDominik Johannを加えて、本格的なゲーム開発をスタートさせた。このようにトップビュー画面、ゼルダスクロール、1分間でゲームが終わるなど、ゲームの基本コンセプトは『Adventure Minute』の中にみてとれる。また、こうした経緯から本作は企業ではなく、最後まで個人開発者のチームによって作られている。

『Minit』の原型となった『Adventure Minute』

0を1にすることと、1を100にすること

48時間でプロトタイプが完成したにもかかわらず、そこから完成までに長い時間がかかったのは、ゲームのプレイ体験を向上させるには、多大なエネルギーが必要だからだ(一節にはプロトタイプの開発時間の100倍が本開発に必要になるという)。その一方で、「1分間アクションRPG」というアイディアがなければ、本作は日の目をみなかったことも確かだ。このようにゲームジャムは0から1を生むのに向き、本開発は1を100にするのに適している。それぞれ異なるスキルや労力が必要となるのだ。

日本でも「Global Game Jam」をはじめ、各地でさまざまなゲームジャムが開催されているが、本開発を経てリリースに至るものは、ほとんどない。ゲームジャムが終わった時点でモチベーションが途切れてしまうからだ。にもかかわらず、本作の開発陣は継続開発を続け、世界的なヒットをおさめた。何はなくとも、この偉業が賞賛されるべきだろう。また、本作のようにゲームジャム発祥のインディーゲームは世界各地で続出している(本連載でも『Life Goes On: Done to Death』などが相当する)。日本からも同様のタイトルが登場することを期待したい。

1分で死んでしまうのに話が長いNPC……もっとも、永久に転生できるのだが……

ゲーム中にはさまざまなパズルが仕掛けられている

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■関連リンク
Steam『Minit』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/609490/Minit/
「Devolver Digital」公式サイト (パブリッシャー)
https://www.devolverdigital.com/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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