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『Carto』ゲームとクリアとインディーゲーム【インディーゲームレビュー 第94回】

絵本テイストの世界観のもと、ボードゲーム『カルカソンヌ』を彷彿とさせるメカニクスを持つパズルアドベンチャー『Carto』。それゆえに本作には、「クリアできないプレイヤー」が一定数存在する。ゲームの大作化が進む中、こうしたゲームデザインはインディーゲームならではの表現になろうとしている。


良質なパズルゲームと良質なゲームの関連性

ゲームのパズル性をめぐる考察も今回で4回目となった。これもゲームが持つパズル性がゲームの根幹にかかわってくるからだ。ここであらためて、『Helltaker』で述べた「筆者が考える良質なパズルゲームの4か条」について振り返ろう。

良質なパズルゲームの4か条

  1. パズルを解くための情報や手掛かりがプレイヤーに明示されている
  2. パズルを解かなくても進められるように、迂回路などが用意されている
  3. 迂回路がない場合は、適切なヒントや解答がゲーム中で提示される
  4. パズルを解くうえでプレイヤーの特別なスキルに依存しない

『Night in the Woods』

そのうえで『Night in the Woods』で述べたゲームの三要素「目的」「挑戦(障害)」「手段」に当てはめて考えると、パズルは「挑戦」、パズルを解くための情報や手掛かりは「手段」に相当する。挑戦とは、すなわち課題だ。一方で課題の存在がゲーム内で不明瞭なことも多い。課題の存在に気づかないプレイヤーは、課題を達成することなく、ゲームを止めてしまうだろう。つまり上記は次のように一般化できる。

良質なゲームの5か条

  1. 課題の存在がプレイヤーに明示されている
  2. 課題を達成するための手段がプレイヤーに明示されている
  3. 課題を解かなくても進められるように、迂回路などが用意されている
  4. 迂回路がない場合は、適切なヒントや解答がゲーム中で提示される
  5. 課題を解くうえでプレイヤーの特別なスキルに依存しない

それでは、はたしてこの5項目を満たすゲームはあり得るだろうか。「それは現状では不可能だ。なぜなら、個々のプレイヤーごとに最適なレベルの課題を設定することができないからだ」と考える読者は多いだろう。

しかし、この問題はメタAIやヘルプ機能の改善などで、近い将来解決される可能性が高い。『New スーパーマリオブラザーズ Wii』(2009)で「おてほんプレイ」が導入され、初心者でもエンディングに到達できるようになったのは、その先駆けだ。PlayStation5(PS5)ではこうした思想が発展し、ゲーム攻略のヒントを動画で紹介する「ゲームヘルプ」機能がある。難易度の動的調整はゲームデザイン研究のホットトピックでもある。

PS5のゲームヘルプ機能(4分15秒前後より)

裏を返せばAAAゲームは、初心者から上級者まで本当の意味で満足させられなければ、ビジネスとして成立しないほどの開発規模になりつつある。PS3世代のゲーム『グランド・セフト・オートV』が、PS5でも移植発売されるように、これからのAAAゲームには、ゲーム機の世代を超えて売れ続けることが求められる。そのためにはゲームの内容もさることながら、ゲームをより幅広い層に楽しませるための技術やテクニックが必要なのだ。

地図を作って世界を冒険しよう

さて、ここまで論を進めてきた上で、あらためて今回レビューする『Carto』を見てみよう。

本作は、地図の欠片を自由につなぎ合わせてストーリーを進めていくパズルアドベンチャーだ。ボードゲーム『カルカソンヌ』を彷彿とさせるメカニクスであり、「この発想はなかった」と膝を叩いた愛好家も多かったのではないだろうか。機会があれば、こちらもあわせて遊んでみて欲しい。


閑話休題。本作の主人公は地図の欠片を組み替えて、世界の地形を変化させる力をもつ少女カートだ。ゲームの目的は、とある事故で離ればなれになった祖母を探し出すこと。そのためにカートは世界を探索し、地図の欠片を集め、欠片を回転させたり、移動させたり、並べたりしながら、さまざまなキャラクターやイベントを出現させ、物語を進めていく必要がある。これを前述したゲームの三要素に当てはめると次のようになる。

目的:祖母と再会する
挑戦:地図の欠片を適切に配置する
手段:マップ上を移動できる、キャラクターと会話できる、地図の欠片を収集したり、回転させたりできる

つまり、本作は地図の欠片を組み替えて、探索する行為自体がパズルになっているというわけだ。

では本作は前述した「良質なゲームの5か条」に即したものになっているだろうか。残念ながら答えはノーだ。第一に課題(パズル)の存在を認識すること自体が、パズルになっていること。第二にゲームの展開が直線で、パズルをクリアできなければ、ゲームが進めなくなること。第三に迂回路が存在しないこと、などだ。まだまだたくさんあるだろう。

地図の欠片を集めてつなぎあわせ、物語を進めていく

中でも気づきにくいのは、空白を囲むように4枚の欠片を適切に配置すると、新しい欠片が出現するルールだ。これをクリアするには発想の転換が必要で、筆者はプレイ動画のお世話になった。中盤以降に登場する、「地図の欠片を適切につなげたうえで、適切な方向に移動する」パズルも同様だ。それまで「適切に欠片をつなげること」が重要だという認識があればあるほど、手掛かりに気づきにくくなるからだ。

そのため、本作に求められる施策は、個々のプレイヤーのスキルに応じて、適切なヒントを提示したり、必要に応じて解答を示したりする機能を備えること、となる。記事前段の議論に即して言えば、それが「より多くのプレイヤーを満足させるために必要」だからだ。

どちらに行くのが正解か、手掛かりは表示されているのだが……

ただし、ここで改めて考えてみたいことがある。そもそも「より多くのプレイヤーを満足させる」ことは、そこまで重要なのだろうか。世の中には「限られたプレイヤーを満足させるために作られた」ゲームもあるはずだ。売上の見込みは小さくなるが、その範囲内で作れる規模にすればいい。インディーゲームが、そうした方向性と相性が良いのは、あきらかだ。本作もまた、そうしたタイトルの1つだと言える。

こうした視点に立てば、本作がもつある種の「欠点」は、そのまま本作の「持ち味」だと言いかえられる。絵本のような温かみのあるグラフィックや、地図の欠片をつなげながら解いていくパズル性、少女と祖母のきずなを描くストーリーは、まさに本作ならではだろう。いずれもAAAゲームの要素にはなりにくいものだ。

AAAゲームがより多くのプレイヤーを獲得せざるを得ない状況の中で、本作のような「クリアできないプレイヤーが一定数いることを念頭においたゲームデザイン」は今後、インディーゲームならではの魅力になっていくと思われる。ゲーム機の世代交代が進む中で、あらためてゲームの構造に注目していきたい。

metacriticスコア:74
主な受賞歴:Independent Games Festival 2019 Excellence in Design Honorable Mention, GDC Showcase 2019 Day of the Devs Selection


Steam『Carto』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1172450/Carto/?l=japanese
PS5 詳細機能
https://www.playstation.com/ja-jp/ps5/ps5-features/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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