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『TorqueL』インディーゲームの成熟と問われるゲームデザインのメリハリ【小野憲史のインディーゲームレビュー 第86回】
ゲームエンジンの普及によって急成長したインディーゲーム。しかし、その大半は市場で埋もれてしまうのが現状だ。こうした中、長期間販売され続けるタイトルには、どのような特性があるのか。2D回転アクションゲーム『トルクル(TorqueL)』はその答えを示している。
注目すべきは先人の教えだ。『ゼビウス』『ドルアーガの塔』などで知られる遠藤雅伸氏(東京工芸大学)は著書『遠藤雅伸のゲームデザイン講義実況中継』(SBクリエイティブ)で、「アクションゲームをデザインする場合、ずっとゲームの中で繰り返す基本のアクションが面白くないと、ゲーム自体は絶対に面白くならない。どんなアクションを面白さとして提供するのかが、一番最初に考える最も大事なことです」と述べている。アクションゲームはアクションの面白さによって差別化されるのだ。
このテーゼに忠実なゲームの一つが、2D回転アクションゲーム『トルクル(TorqueL)』だ。ゲームの目的は四角い箱を操作して、赤い障害物に触れないようにしながら、ゴールに到達させること。これだけなら凡百のゲームと変わらない。ユニークなのは移動方法で、上下左右にニョキニョキと伸びる四角い棒で箱を押し出しながら、進んでいくのだ。そのため箱はくるくると回転しながら進むことになる。たしかに、こんなアクションゲームは他に存在しなかったと言えるだろう。
もっとも、本作のキモはボタン配置にある。四角い棒は赤・青・黄・緑に塗り分けられ、Xbox360 コントローラー(PCゲーマーにはおなじみだ)のボタンの色に対応している。つまり、Aボタンを押したからといって、下向きに棒が伸びるわけではない。その時の箱の向きによって、押すべきボタンが刻々と変化するのだ。そのため、ミスを誘発することが前提の作りになっている。これが箱の向きにかかわらず、ボタン配置に即して棒が伸びれば、本作はぐっと遊びやすくなっただろう。
また、ボタン操作に伴って、電子音風の効果音が「ぐにゅう」「にゅいーん」といったように、インタラクティブに変化する。このボタン配置と効果音が相まって、本作は思うように先に進めない。その一方で適当にガチャガチャとプレイしても、運が良ければゴールにたどり着く、じれったさと面白さが絶妙にブレンドした内容になっている。この体験が他に類を見ないものだからこそ、本作は高い評価を得た。そして2015年のリリース以来、ロングセラーを続けているのだ。
その一方でゲーム体験に直結する部分はこだわりが見られる。箱の中に描かれる男性と少女のキャラクターは好例で、箱の移動にともなってチョコチョコと移動する仕草が見られる。実はこのキャラクターには、表象的な意味合いに加えて、箱の向きを直感的に示すという機能的な意味も付与されている。
実際に柳原氏は対談記事の中で、「実は人型キャラクターを入れると、プレイヤーに箱の上下左右が示せるのですごくゲームがわかりやすくなったんです」と発言している。
「そもそもゲームが作れない、作らない言い訳として、『一人では作れない』『人がいないとスケールしない』というのがあります。(中略)柳原さんはそれに対して、『いや、できるけどな』って。ずーっと言っているような感じがして、それがすごくおもしろいですね」。対談相手のシシララ代表・安藤武博氏による、この指摘は的確だ。リソースの乏しいインディーゲーム開発者だからこそ、メリハリを意識したゲームデザインが求められる。本作はその好例だと言えるだろう。
多くのAAAゲームと異なり、開発段階からイベントなどに出展し、メディアに取り上げられるなどして注目度を集め、発売後も移植対応を繰り返すなどして、長期間にわたる展開が行われることが多いインディーゲーム。しかし、そもそもタイトルがユニークでなければ、市場で注目を集めることはない。そこで必要なのは、メリハリのきいたゲームデザインと制作だ。国産インディーゲームの教科書的なタイトルとして、もっと評価されても良い存在だろう。
Copyright 2013-2017 FullPowerSideAttack.com All Rights Reserved. / Music Copyright 2014 sanodg [Nobuyoshi Sano]
Microsoft Sotre 『TorqueL』 物理調整版 販売ページ
https://www.microsoft.com/ja-jp/p/%E3%83%88%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%AB-torquel-%E7%89%A9%E7%90%86%E8%AA%BF%E6%95%B4%E7%89%88/9nnbd1r675wl
『TorqueL』公式サイト
https://www.torquel.net/
ジーパラドットコムの終了と対談記事アーカイブ
https://nanmo.fanbox.cc/posts/160952
アクションゲームの本質とは何か?
『Night in the Woods』のレビューで言及したように、ゲームには「目的」「手段」「障害」の三要素がある。ここでは例としてアクションゲームについて考えてみよう。コントローラで操作できるアバターと、アバターが向かうべきゴールを配置し、行く手を阻む障害物を配置する。これだけで、とにもかくにもゲームは完成だ。しかし、これだけでは多くのゲームがひしめく中、自作を目立たせることはできない。何をすれば自作の存在を(できれば低コストで)ユニークな存在にできるだろうか?注目すべきは先人の教えだ。『ゼビウス』『ドルアーガの塔』などで知られる遠藤雅伸氏(東京工芸大学)は著書『遠藤雅伸のゲームデザイン講義実況中継』(SBクリエイティブ)で、「アクションゲームをデザインする場合、ずっとゲームの中で繰り返す基本のアクションが面白くないと、ゲーム自体は絶対に面白くならない。どんなアクションを面白さとして提供するのかが、一番最初に考える最も大事なことです」と述べている。アクションゲームはアクションの面白さによって差別化されるのだ。
このテーゼに忠実なゲームの一つが、2D回転アクションゲーム『トルクル(TorqueL)』だ。ゲームの目的は四角い箱を操作して、赤い障害物に触れないようにしながら、ゴールに到達させること。これだけなら凡百のゲームと変わらない。ユニークなのは移動方法で、上下左右にニョキニョキと伸びる四角い棒で箱を押し出しながら、進んでいくのだ。そのため箱はくるくると回転しながら進むことになる。たしかに、こんなアクションゲームは他に存在しなかったと言えるだろう。
もっとも、本作のキモはボタン配置にある。四角い棒は赤・青・黄・緑に塗り分けられ、Xbox360 コントローラー(PCゲーマーにはおなじみだ)のボタンの色に対応している。つまり、Aボタンを押したからといって、下向きに棒が伸びるわけではない。その時の箱の向きによって、押すべきボタンが刻々と変化するのだ。そのため、ミスを誘発することが前提の作りになっている。これが箱の向きにかかわらず、ボタン配置に即して棒が伸びれば、本作はぐっと遊びやすくなっただろう。
また、ボタン操作に伴って、電子音風の効果音が「ぐにゅう」「にゅいーん」といったように、インタラクティブに変化する。このボタン配置と効果音が相まって、本作は思うように先に進めない。その一方で適当にガチャガチャとプレイしても、運が良ければゴールにたどり着く、じれったさと面白さが絶妙にブレンドした内容になっている。この体験が他に類を見ないものだからこそ、本作は高い評価を得た。そして2015年のリリース以来、ロングセラーを続けているのだ。
体験に関与しない部分は徹底的に省略する
本作のメイン開発者は個人サークル「FullPowerSideAttack.com」を主催する、「なんも」こと柳原隆幸氏だ。初代『リッジレーサー』のサウンド制作などで知られる佐野電磁氏が楽曲や効果音を提供しているが、実質的に柳原氏の個人制作だと言えるだろう。だからこそ、余分な装飾にリソースをつぎ込む余裕は無かった。画面を見ればわかるように、グラフィックは記号に徹しており、ステージも白やグレーといった無機質なイメージで統一されている。地味といっても良い画面デザインだ。その一方でゲーム体験に直結する部分はこだわりが見られる。箱の中に描かれる男性と少女のキャラクターは好例で、箱の移動にともなってチョコチョコと移動する仕草が見られる。実はこのキャラクターには、表象的な意味合いに加えて、箱の向きを直感的に示すという機能的な意味も付与されている。
実際に柳原氏は対談記事の中で、「実は人型キャラクターを入れると、プレイヤーに箱の上下左右が示せるのですごくゲームがわかりやすくなったんです」と発言している。
「そもそもゲームが作れない、作らない言い訳として、『一人では作れない』『人がいないとスケールしない』というのがあります。(中略)柳原さんはそれに対して、『いや、できるけどな』って。ずーっと言っているような感じがして、それがすごくおもしろいですね」。対談相手のシシララ代表・安藤武博氏による、この指摘は的確だ。リソースの乏しいインディーゲーム開発者だからこそ、メリハリを意識したゲームデザインが求められる。本作はその好例だと言えるだろう。
多くのAAAゲームと異なり、開発段階からイベントなどに出展し、メディアに取り上げられるなどして注目度を集め、発売後も移植対応を繰り返すなどして、長期間にわたる展開が行われることが多いインディーゲーム。しかし、そもそもタイトルがユニークでなければ、市場で注目を集めることはない。そこで必要なのは、メリハリのきいたゲームデザインと制作だ。国産インディーゲームの教科書的なタイトルとして、もっと評価されても良い存在だろう。
Copyright 2013-2017 FullPowerSideAttack.com All Rights Reserved. / Music Copyright 2014 sanodg [Nobuyoshi Sano]
Microsoft Sotre 『TorqueL』 物理調整版 販売ページ
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【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー
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