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『Vampire Survivors』が示すビデオゲームの歴史的文脈【インディーゲームレビュー 第119回】
PCゲームと家庭用ゲームの最大の違いは入力デバイスだ。多くのPCゲームがコントローラー対応を進める中、コントローラーによって操作感が異なる本作は、はからずもゲームの歴史的文脈を示すタイトルになっている。
ビデオゲームの第一号とされる(ビデオゲームの定義にもよるが)『Space War!』には注目すべき点が2つある。第一に本作は専用コントローラーを備えたビデオゲームの第一号だったこと。そして第二にコントローラーが両手持ちだったことだ。左手で自機を操作し、右手でアクションを行う操作系は本作によって生まれた。以後、この操作は現代まで変わらず踏襲されている。
一方でビデオゲーム産業を創出したゲームといえば、Atariの『Pong』を忘れるわけにはいかないだろう。そして『Pong』はまた、片手で操作するゲームとしてもユニークな存在だった。前作『Computer Space』の複雑な操作系(『Space War!』のコピーだったわけだが)を反省してのことだ。そのため『Pong』はビール瓶を片手にプレイできた。黎明期のアーケードゲーム機は酒場やアーケードに置かれることが多かったため、この点が有利に働いたのだ。
Atari『Pong』(https://www.youtube.com/watch?v=2f8bfE0ag5Yより引用)
以後、ビデオゲーム史の中ではしばしば片手でプレイできるタイトルが登場し、ヒットを記録している。代表例は『パックマン』だ。PCゲームのマウスのみでプレイするタイトルも含まれるだろう。スマホゲームの多くも片手でプレイできる。そして今回レビューする『Vampire Survivors』も同様だ。そして本作ははからずも、コントローラーで操作することを拒んでいるように感じられるのだ。
本作の内容はアートスタイルと同様にシンプルだ。ゲームを開始すると四方八方からエネミーが襲ってくるので、マップ上を移動して回避しながら、自動で繰り出される攻撃を用いてエネミーを倒していく。エネミーを倒すとドロップするEXPジェムを入手し、EXPを溜めていくと、レベルアップができ、新たなアイテムが得られる。他に宝箱を入手することでも、ランダムでアイテム(1つ、まれに3~5つ)が得られる。これらを繰り返して30分間、生き残ればゲームクリアだ。
逆に体力が尽きるとゲームオーバーで、ゲーム中に得たアイテム類は没収される(ただし獲得したコインは引き継がれる)。コインを消費すれば新しいキャラクターをアンロックさせたり、最初からキャラクターを強化させた状態でゲームを始めることもできる。ゲーム中にアチーブメントを達成することで、武器、アビリティ、キャラクター、ステージなどを増やすこともできる。このように本作はゲームを繰り返しながら徐々にキャラクターを育てていく、ローグライトRPGの要素を備えている。
本作を開発したのはイギリス在住のイタリア人、ルカ・ガランテ(Luca Galante)氏だ。スロットマシンの開発者からキャリアを始めたガランテ氏は、JavaScriptやHTML5を用いてWebアプリケーションの開発にも携わった。
その後、本業のかたわらビデオゲーム開発を始めたガランテ氏は、本作をAndroid向けアプリとしてリリースした。itch.io版、Steam版とリリースを重ねる中で、実況プレイに取り上げられ、大ヒット。はれてフルタイムのインディーゲーム開発者となり、制作に集中できるようになったという。
本作のポイントはレトロゲームとの関連性だ。ガランテ氏はインタビューで影響を受けたゲームに『パックマン』をあげており、本作においても「片手でプレイできる」「エネミーの攻撃を避けつつ、パワーアップアイテムを使って反撃する」「脳の爬虫類的な部分を刺激する」という3点をあげている。また、アートワークには『悪魔城ドラキュラ』の影響を受けているとも語っている。他に宝箱のアイテム出現では、スロットマシンの確率操作のノウハウが活かされているという。
もっとも、本作には制作者も意図しなかったであろう、ユニークな特徴が隠されている。本作はキーボード以外に、マウス、タッチパネル、ゲームコントローラーの操作に対応している。このうちゲームコントローラーのアナログスティックで操作すると、斜め移動が上下左右に比べて約1.4倍も速くなるのだ。ただし、十字パッドで操作すると移動速度は変わらない。そのため開発者としても意図しない動作だと思われるが、原稿執筆時まで改善されていない(2022年4月10日現在)。
なお、アナログスティックを使用したときのみ速度が変わる理由は不明だが、一般的に考えられるのはキャラクターの移動をベクトル計算で行う際、正規化を怠っていることが考えられる(オブジェクトに対して縦と横に1の力を同時に加えると、三平方の定理で斜め方向に1.4の力が加わる)。とはいえ、これでは他のデバイスで操作した場合は移動速度が変わらないことの説明が付かない。そのため、問題は開発フレームワーク(本作はPhaser.js上で開発されている)のバグだとも考えられる。
ともあれ、重要な点はアナログスティックとそれ以外で、ゲームの体験が異なる点だ。ここから妄想を膨らませると、開発者は何らかの理由でこの問題を修正できないでいること。そして、できればアナログスティック以外……できればキーボードによる操作を望んでいること、という仮説が成り立つ。本作は「レトロゲーム風の」「片手で遊べる」「PCゲーム」だからだ。マウスが登場するまでPCゲームはキーボードで遊べるようにすることが前提だったのだ。
itch.ioにアップロードされた、Phaser.js上で開発されたゲーム群
多くのPCゲームでコントローラー対応が進む中、プレイヤーもまたアクションゲームなど、素早い操作が求められるゲームでは、コントローラーを使ってプレイすることに慣れている。もっとも、コントローラーによるゲーム文化は、家庭用ゲーム機で培われてきたものだ。同じようにスマートフォンにはタッチ操作のゲームが、アーケードにはジョイスティックのゲームが似合う。本作のようにドット絵で描かれたPCゲームは、キーボードで操作して欲しい……これは筆者の勝手な思い込みにすぎないが、そうしたメッセージを発しているように感じられた。
ただ、この仮説が正しいとしたら、もう一歩踏み込んでも良いだろう。それがフィールドを円形にすることだ。上下左右斜めの移動速度が等しい一方で、フィールドが横長の長方形というのは、一見すると正しいようでいて、本作のように温故知新的なゲームには勿体ない気もする。冒頭で紹介した『Space War!』が動作したDEC社のミニコン、PDP-1は円形のモニタを有していたからだ。円形のモニタは、2基の宇宙船が中央に配置された重力スポットを挟んで、ぐるぐる周りながらミサイルを撃ち合うというシチュエーションにもよくマッチしていた。
『SpaceWar!』 (https://youtu.be/_L1HeZ2kPckより引用)
同じように円形のフィールドは本作の「四方八方からエネミーが襲ってくる」というシチュエーションにも適している。また、中央にフィールドを配置して左右にアイテム類などを表示すれば、視認性も上がるだろう。その上で本作は『Space War!』とは異なり、「片手で遊べるゲーム」というメッセージを打ち出すことで、ビデオゲームの文脈を踏まえつつ、独自の解釈を示した……そのように言うこともできるのではないだろうか。単にレトロ風ゲームを作るのではなく、その文脈をうまく活用することで、さらなる温故知新が見いだせるように思われるのだ。
Metacriticスコア:なし
主な受賞歴:なし
©2017 Atari Interactive, Inc. All rights reserved. Atari Vault™ and associated trademarks, including Atari classic-game titles and logos and the Atari word mark and logo, are trademarks or registered trademarks of Atari Interactive, Inc. in the U.S. and other territories. All other trademarks are the property of their respective owners. Developed by Code Mystics, Inc. FOCAL Emulation Technology ©2009-2015 Code Mystics Inc.
Steam『Vampire Survivors』配信ページ
https://store.steampowered.com/app/1794680/Vampire_Survivors/
itch.io『Vampire Survivors』配信ページ
https://poncle.itch.io/vampire-survivors
開発元poncle公式サイト
https://www.poncle.net/
Vampire Survivors, the interview with the author behind the game and the sudden success - SportsGaming.win(英語)
https://www.sportsgaming.win/2022/02/vampire-survivors-interview-with-author.html
両手で遊ぶか、片手で遊ぶか
ビデオゲームの第一号とされる(ビデオゲームの定義にもよるが)『Space War!』には注目すべき点が2つある。第一に本作は専用コントローラーを備えたビデオゲームの第一号だったこと。そして第二にコントローラーが両手持ちだったことだ。左手で自機を操作し、右手でアクションを行う操作系は本作によって生まれた。以後、この操作は現代まで変わらず踏襲されている。
一方でビデオゲーム産業を創出したゲームといえば、Atariの『Pong』を忘れるわけにはいかないだろう。そして『Pong』はまた、片手で操作するゲームとしてもユニークな存在だった。前作『Computer Space』の複雑な操作系(『Space War!』のコピーだったわけだが)を反省してのことだ。そのため『Pong』はビール瓶を片手にプレイできた。黎明期のアーケードゲーム機は酒場やアーケードに置かれることが多かったため、この点が有利に働いたのだ。
Atari『Pong』(https://www.youtube.com/watch?v=2f8bfE0ag5Yより引用)
以後、ビデオゲーム史の中ではしばしば片手でプレイできるタイトルが登場し、ヒットを記録している。代表例は『パックマン』だ。PCゲームのマウスのみでプレイするタイトルも含まれるだろう。スマホゲームの多くも片手でプレイできる。そして今回レビューする『Vampire Survivors』も同様だ。そして本作ははからずも、コントローラーで操作することを拒んでいるように感じられるのだ。
『パックマン』に影響を受けたゲームプレイ
本作の内容はアートスタイルと同様にシンプルだ。ゲームを開始すると四方八方からエネミーが襲ってくるので、マップ上を移動して回避しながら、自動で繰り出される攻撃を用いてエネミーを倒していく。エネミーを倒すとドロップするEXPジェムを入手し、EXPを溜めていくと、レベルアップができ、新たなアイテムが得られる。他に宝箱を入手することでも、ランダムでアイテム(1つ、まれに3~5つ)が得られる。これらを繰り返して30分間、生き残ればゲームクリアだ。
逆に体力が尽きるとゲームオーバーで、ゲーム中に得たアイテム類は没収される(ただし獲得したコインは引き継がれる)。コインを消費すれば新しいキャラクターをアンロックさせたり、最初からキャラクターを強化させた状態でゲームを始めることもできる。ゲーム中にアチーブメントを達成することで、武器、アビリティ、キャラクター、ステージなどを増やすこともできる。このように本作はゲームを繰り返しながら徐々にキャラクターを育てていく、ローグライトRPGの要素を備えている。
本作を開発したのはイギリス在住のイタリア人、ルカ・ガランテ(Luca Galante)氏だ。スロットマシンの開発者からキャリアを始めたガランテ氏は、JavaScriptやHTML5を用いてWebアプリケーションの開発にも携わった。
その後、本業のかたわらビデオゲーム開発を始めたガランテ氏は、本作をAndroid向けアプリとしてリリースした。itch.io版、Steam版とリリースを重ねる中で、実況プレイに取り上げられ、大ヒット。はれてフルタイムのインディーゲーム開発者となり、制作に集中できるようになったという。
本作のポイントはレトロゲームとの関連性だ。ガランテ氏はインタビューで影響を受けたゲームに『パックマン』をあげており、本作においても「片手でプレイできる」「エネミーの攻撃を避けつつ、パワーアップアイテムを使って反撃する」「脳の爬虫類的な部分を刺激する」という3点をあげている。また、アートワークには『悪魔城ドラキュラ』の影響を受けているとも語っている。他に宝箱のアイテム出現では、スロットマシンの確率操作のノウハウが活かされているという。
アナログスティックで操作すると移動速度が変わる意味
もっとも、本作には制作者も意図しなかったであろう、ユニークな特徴が隠されている。本作はキーボード以外に、マウス、タッチパネル、ゲームコントローラーの操作に対応している。このうちゲームコントローラーのアナログスティックで操作すると、斜め移動が上下左右に比べて約1.4倍も速くなるのだ。ただし、十字パッドで操作すると移動速度は変わらない。そのため開発者としても意図しない動作だと思われるが、原稿執筆時まで改善されていない(2022年4月10日現在)。
なお、アナログスティックを使用したときのみ速度が変わる理由は不明だが、一般的に考えられるのはキャラクターの移動をベクトル計算で行う際、正規化を怠っていることが考えられる(オブジェクトに対して縦と横に1の力を同時に加えると、三平方の定理で斜め方向に1.4の力が加わる)。とはいえ、これでは他のデバイスで操作した場合は移動速度が変わらないことの説明が付かない。そのため、問題は開発フレームワーク(本作はPhaser.js上で開発されている)のバグだとも考えられる。
ともあれ、重要な点はアナログスティックとそれ以外で、ゲームの体験が異なる点だ。ここから妄想を膨らませると、開発者は何らかの理由でこの問題を修正できないでいること。そして、できればアナログスティック以外……できればキーボードによる操作を望んでいること、という仮説が成り立つ。本作は「レトロゲーム風の」「片手で遊べる」「PCゲーム」だからだ。マウスが登場するまでPCゲームはキーボードで遊べるようにすることが前提だったのだ。
itch.ioにアップロードされた、Phaser.js上で開発されたゲーム群
『Space War!』に回帰し、『Space War!』を越える
多くのPCゲームでコントローラー対応が進む中、プレイヤーもまたアクションゲームなど、素早い操作が求められるゲームでは、コントローラーを使ってプレイすることに慣れている。もっとも、コントローラーによるゲーム文化は、家庭用ゲーム機で培われてきたものだ。同じようにスマートフォンにはタッチ操作のゲームが、アーケードにはジョイスティックのゲームが似合う。本作のようにドット絵で描かれたPCゲームは、キーボードで操作して欲しい……これは筆者の勝手な思い込みにすぎないが、そうしたメッセージを発しているように感じられた。
ただ、この仮説が正しいとしたら、もう一歩踏み込んでも良いだろう。それがフィールドを円形にすることだ。上下左右斜めの移動速度が等しい一方で、フィールドが横長の長方形というのは、一見すると正しいようでいて、本作のように温故知新的なゲームには勿体ない気もする。冒頭で紹介した『Space War!』が動作したDEC社のミニコン、PDP-1は円形のモニタを有していたからだ。円形のモニタは、2基の宇宙船が中央に配置された重力スポットを挟んで、ぐるぐる周りながらミサイルを撃ち合うというシチュエーションにもよくマッチしていた。
『SpaceWar!』 (https://youtu.be/_L1HeZ2kPckより引用)
同じように円形のフィールドは本作の「四方八方からエネミーが襲ってくる」というシチュエーションにも適している。また、中央にフィールドを配置して左右にアイテム類などを表示すれば、視認性も上がるだろう。その上で本作は『Space War!』とは異なり、「片手で遊べるゲーム」というメッセージを打ち出すことで、ビデオゲームの文脈を踏まえつつ、独自の解釈を示した……そのように言うこともできるのではないだろうか。単にレトロ風ゲームを作るのではなく、その文脈をうまく活用することで、さらなる温故知新が見いだせるように思われるのだ。
Metacriticスコア:なし
主な受賞歴:なし
©2017 Atari Interactive, Inc. All rights reserved. Atari Vault™ and associated trademarks, including Atari classic-game titles and logos and the Atari word mark and logo, are trademarks or registered trademarks of Atari Interactive, Inc. in the U.S. and other territories. All other trademarks are the property of their respective owners. Developed by Code Mystics, Inc. FOCAL Emulation Technology ©2009-2015 Code Mystics Inc.
Steam『Vampire Survivors』配信ページ
https://store.steampowered.com/app/1794680/Vampire_Survivors/
itch.io『Vampire Survivors』配信ページ
https://poncle.itch.io/vampire-survivors
開発元poncle公式サイト
https://www.poncle.net/
Vampire Survivors, the interview with the author behind the game and the sudden success - SportsGaming.win(英語)
https://www.sportsgaming.win/2022/02/vampire-survivors-interview-with-author.html
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー
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