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『WILL-素晴らしき世界-』が醸し出す等身大の中国ゲーム事情【インディーゲームレビュー 第55回】

世界第2位の経済大国、中国。メディアによって伝えられる情報が極端にふれがちな中で、等身大の若者文化を伝えてくれるのが『WILL-素晴らしき世界-』だ。日本のビジュアルノベルゲームと変わらないテイストを通して、その外側に日本と変わらない日常が広がっていることを教えてくれる。


小説・映画・ドラマといった物語エンタテインメントは日常をうつす鏡だ。しかし、今や日本を越えて世界第2位の経済大国となった中国から、そうした作品群が日本に紹介されることは少ない。その一方で中国人観光客による「爆買い」をはじめとした、エキセントリックなニュースが、格好のネタとしてメディアで消費されている。その姿は「エコノミックアニマル」と揶揄されたバブル期の日本人の対外イメージと奇妙な相似形をなしている。

こうした中、神様となって庶民のささやかな願いを叶えていくビジュアルノベルゲーム『WILLー素晴らしき世界ー』は、中国の若者文化を日本に伝える格好のテキストとして機能している。実際、本作ではじめて「中国人によって制作された、現代モノの物語エンタテインメント」に触れたという日本人も多いのではないだろうか。その結果、大半がこのように感じただろう。「なんだ、中国といっても、日本と変わらないじゃないか……」と。

神様になって人々のささやかな願いを叶えよう

本作の主人公は人々の願いを叶える力を持つ神様のユアンだ。彼女のもとには、ちょっとした日常生活の悩みから、犯罪組織に絡むヘビーな問題まで、さまざまな不幸ごとに関する手紙が寄せられてくる。プレイヤーのミッションは、これらの手紙を読んで文脈を入れ替え、送り主の運命を変えていくこと。鍵を握るイベントの順番やタイミングを入れ替えることで、その後のストーリーを変化させられるのだ。複数の手紙を同時に扱い、問題をまとめて解決するシーンもある。

ゲームの主な展開

運命を変える特殊なペンの力で、文中の白いブロックの場所を入れ替えられる。プレイヤーのミッションはこの力で人々の悩みを解決していくことだ

混合ダブルスで息が合わず試合に負けてしまった2人。しかしプレイヤーの動作を入れ替えると……

動作を入れ替えたことで、2人のその後の運命が変化することになる

片方はバッドストーリー、片方はランクAの結果になった。多くの場合、ストーリーはS~C、そしてBadと5段階の結果が用意されている

このように本作のポイントは、一般的なビジュアルノベルゲームでありながら、選択肢に特徴的なメカニクスを加えたことだ。ブロックを入れ替えるのも、選択肢を選ぶのも、それによってストーリーが変化するという点では、大差がない。しかし、このちょっとしたメカニクスが、「ドジっ子で美少女の神様が人々の悩みを、あわあわしながら解決していく」という世界観と相まって、ユニークなゲーム体験を生み出している。ありきたりなメカニクスでよしとしなかった、ゲームデザインの勝利だろう。

ただし、このデザインが100%機能しているとは言いがたい。先の展開を推測するための手がかりが少なすぎて、すべての組み合わせを試すことになるからだ。そのため歯ごたえのあるパズルを求めるプレイヤーには不向きだろう。また、本作には十数人のメインキャラクターが登場し、北京・釜山・香港の三都市を股にかけて物語が展開するが、それぞれのキャラクターの絡み方は限定的だ。そのため、どの選択肢を選んでも、物語がそこまでダイナミックな変化を見せるわけではない。

もっとも、本作の価値はそうした「ゲーム体験としての深み」にあるのではない。本作が製作された中国(具体的には北京)でも、日本と同じ日常風景が、ゲームの外側に広がっていると感じさせられる点が重要なのだ。実際、本作のストーリーは日本のライトノベルに似ており、文学的な深みがあるわけではない。しかしラノベが楽しめる社会とは、中産階級が発達した、平和で成熟した社会だ。いまだ中国のポップカルチャーが日本にとって縁遠い存在である中、その一端がゲームというメディアを通して日本に届けられた点が、本作の存在意義だと言えるだろう。

メインキャラクターには、それぞれ個性的なプロフィールが設定されている

イベントシーン、キーワードの説明、BGMなどがゲームの進展にあわせてアンロックされていき、後から見返せるなど、ビジュアルノベルゲームならではのメカニクスも満載だ

2年間無給で働いた結果、制作者が得たものとは……

ちなみに本作を楽しむ上で、ぜひ参照して欲しい作品がある。中国のインディーゲームシーンを扱ったドキュメンタリー映画『独行』(2018)だ。
※『独行』はSteamにて配信中。また、6月25日より日本語字幕が実装された。

本作の開発を主導した女性クリエイター・王妙一さんも登場し、ゲーム開発の裏側が赤裸々に語られている。それによると開発チームは3.5人で、開発期間は2年だが、王さん自身は無給で働いたという。本作のリリース後、セールスが4万本に達したところで、開発チームは解散。王さんの手元には50万元(約850万円)が残った。

『独行』には、王さんの実家にカメラが入るシーンもある。壁には『英雄伝説』をはじめ国産ゲームのポスターが張られ、本棚には『名探偵コナン』などのコミックスが並ぶなど、日本のコンテンツで育ったことがわかる。精華大学(日本の東京大学に相当)を卒業後、中国の大手ゲーム企業であるNetEaseのエンジンプログラマーを経て、インディーゲームに転身した王さん。しかし今では年収をはじめ、同級生との立場に引け目を感じるようになったとも漏らすなど、順風満帆というわけではない。

映画『独行』には5名の中国インディーゲームクリエイターが登場し、王さんはその一人だ

一方でインディーゲームを題材にしたドキュメンタリー映画といえば、日本のインディーシーンを扱った『Branching Paths』(2016)を忘れるわけにはいかないだろう。フランス人の監督による作品で、好きなゲームを作りたいという理想と、お金を稼がなければいけないという現実の矛盾が、さまざまなクリエイターの視点を通して浮き彫りにされている。実際、『独行』のテーマやモチーフは『Branching Paths』で、すでに大半が描かれている。ここでも日本と中国は地続きなのだ。
※『Branching Paths』はSteamで配信中。日本語字幕も実装されている。

『Branching Paths』の冒頭で、お台場に立つ青年

「WePlay2017」でプレイアブル出展された『WILL -素晴らしき世界-』。本作はまた、2016年の東京ゲームショウでも出展され、注目を集めた

ちなみに筆者は上海で2017年10月に開催されたインディーゲームの祭典「WePlay2017」を取材した際、本作の存在を知り、驚かされた経緯がある。会場では本作に限らず、イノベーティブな中国インディーゲームが多数出展されており、その幾つかは日本でも発売された。あれから1年半が経過し、ますます飛躍しつつある中国インディーゲームの未来に高い将来性を感じざるを得ない。その一方で本作に刺激を受けた日本のインディーゲーム開発者が、より素晴らしい作品を開発していくことを期待したい。

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■関連リンク
『WILL -素晴らしき世界-』公式サイト(日本語版)
http://publishing.playism.jp/will
Steam『WILL -素晴らしき世界-』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/588040/WILL_A_Wonderful_World__WILL/
Steam『独行』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/825400/Indie_Games_in_China/
Steam『Branching Paths』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/494680/Branching_Paths/

【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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