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『Assemble with Care』良質なインタラクティブ絵本ならではのスマホからの移植問題【インディーゲームレビュー 第112回】

『モニュメントバレー』シリーズで知られる英ustwo gamesのアドベンチャーゲーム。オリジナル版の持つ良質なインタラクティブ絵本としての価値は、PC版そして日本語版に翻案される過程で、どのように変化していっただろうか?


『モニュメントバレー』があきらかにした海賊版被害


2014年にスマートフォンでリリースされた『モニュメントバレー』は、ゲーム業界を二度震撼させた。第一に完成度の高さ。そして第二に海賊版の多さだ。

同社は全ダウンロードのうち、Android版で料金を支払った割合は5%、iOS版は40%だったとTwitterで明かしている。これを潮目にスマートフォンで基本プレイ無料のアイテム課金モデルが隆盛となり、売り切りモデルは衰退していった。

『モニュメントバレー』

こうした風潮に一矢を報いようとしているのが、アップルが2019年から開始した「Apple Arcade」だ。月額600円のサブスクリプションモデルで、事業者はゲームのダウンロード数に応じた収益分配が行われる。売り切りモデルに適したプラットフォームであり、今回レビューする『Assemble with Care』もローンチタイトルの一つとしてリリースされ、注目を集めた。

ゲームは個人で修理サービスを営むマリアが、機械や玩具を修理しながら、人と人との関係を修復していくストーリーだ。プレイヤーは依頼にもとづき、壊れたカセットレコーダーやカメラなどを分解し、破損したパーツを取りかえて、再び組み立てていく。ゲームというよりインタラクティブ絵本といった内容で、筆者は特に詰まることなく、2時間程度でクリアできた。

最大の特徴は「モノを修理する」というギミックだ。プレイヤーは実際に画面をタッチしながら、アイテムを裏返したり、ドライバーでネジを外したり、コードを配線したりといった作業を、直感的に行うことができる。その際、画面が大きい方がやりやすいことは、言うまでもない。そのためiPhoneではなくiPadで遊ぶ方が、より絵本感覚で楽しめるように感じられた。

『モニュメントバレー』が『1』から『2』に進化する過程で加わった「家族」というテーマが、本作ではさらに昇華されている点もポイントだ。本作には3組の家族が登場する。そのうち2組は依頼者にまつわるものだ。これに対して3組目の家族とは、主人公のマリアと両親となる。ゲーム中であえて両親の存在を伏せることで、相対的に浮き上がらせるというテクニックが使われており、興味深く感じられた。


タッチ操作からマウス操作への変化がもたらしたもの


もっとも、「Apple Arcade」での配信は痛し痒しだ。通常の売り切りゲームとは異なり、「Apple Arcade」に加入しなければ、本作は遊べないからだ。そのため……というわけでもないと思われるが、2020年に本作はSteamで配信され、PCでも遊べるようになった。その際、画面レイアウトが縦から横になる、タッチではなくマウスで操作するなど、デバイスの特性に応じた修正が加えられた。

その上でプレイした感覚だが……残念ながらオリジナル版がタッチ操作に最適化されているため、マウス操作が少しストレスに感じられた。特にアイテムを裏返しにする際、マウスカーソルをアイテムの角付近に移動させて、マウスカーソルを変更させる必要があるため、誤操作を招きやすくなっているのだ。画面を直接タッチするのではなく、マウスで操作する点も、ゲーム世界と距離を生んでいるように感じられた。

ポイントはPC版がスマートフォン版を忠実に移植しようとしている点だ。オリジナル版がスマートフォンに最適化された内容のため、PC版は劣化版にならざるを得ない。そこでよくとられるのが、移植先デバイスならではの追加機能や、追加モードを加えるやり方だ。たとえば本作であれば、VRモードなどが考えられるだろう(それで採算が取れるか否かは別問題だが)。

この好例がFPSだ。FPSはPCから生まれたジャンルで、コンソール版への移植は死屍累々だった。マウスとキーボードでの操作に最適化された内容のまま、ゲームパッドでの操作に対応させようとしたからだ。Xboxのキラーソフトとなった『Halo』では、この違いを踏まえた上で、ゲームパッドでの操作に内容を最適化させたことが、大ヒットの遠因になった。本作でもそうした工夫が欲しかった。



メッセージ表示の組み込みがもたらした問題点


また、本作では英語から日本語へのローカライズで残念な点が見られる。日本語ならではの改行と、句読点の問題だ。例にあるように、本作では英語版ではスマートに表示されている文章が、日本語版では余計なところで改行が入っている例が、しばしば見られる。これらは翻訳された文章を、そのままゲームのメッセージウインドウに流し込んでいることが原因だと考えられる。

もっとも、本作のメッセージ表示はゲーム内容に比べて配慮が乏しいように感じられる。原文の英文自体、プロポーショナルフォントではなく、等幅フォントが使われているのは好例だ。そのため文字間の幅が均一で、少々読みにくくなっている。英語版では文末にピリオドが入っているにもかかわらず、日本語版ではすべての文で句点(。)が抜けている点からも、文字への無関心さの表れが感じられる。

誤解がないように補足すると、本作の翻訳の品質自体は高い。「A part I wouldn’t be able to fix.」を「そういうのはあたしでも直せない」と意訳している部分は好例で、日本語ネイティブのゲーム翻訳家が担当していると思われる。ただし、そうした翻訳文がゲーム内に雑に組み込まれているため、全体の品質が下がっているのだ。元のクオリティが高いだけに、残念に感じられる。

英語版と日本語版のメッセージ表示の違い

「A part I wouldn’t be able to fix.」を直訳すると「私が修正できない部分」となる

「そういうのはあたしでも直せない」は名訳だが、雑な改行のために訳文の品質が低下している(赤線は筆者による)

1行目は「and」と「I」の間で改行すべきではないだろうか?

本来なら「テープがこわれちゃって、」「もううごかないの」で2行にすべきところ(赤線は筆者による)

システムまわりのメッセージも英文では問題ない

日本語では改行位置がおかしくなってしまった例(赤線は筆者による)

前述の『モニュメントバレー』はタッチ操作に最適化された点と、メッセージ表示が最小限に抑えられた点が特徴だった。それだけに、ゲームの移植やローカライズに関するノウハウが蓄積されないまま、本作が作られたようにも感じられる。2020年にリリースされ、当初からコントローラー操作にも対応した最新作『Alba: A Wildlife Adventure』では、これらの点がどのように改善されているか、機会があればチェックしていきたい。

metacriticスコア:なし(iOS版:72)
主な受賞歴:なし

Steam『Assemble with Care』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1202900/Assemble_with_Care/
ustwo games 公式サイト
https://www.ustwogames.co.uk/
インタビュー「Assemble with Care: Why Ustwo Games’ tricky follow-up to Monument Valley found its perfect home on Apple Arcade」(英語)
https://www.mcvuk.com/business-news/priceless-why-ustwo-games-tricky-follow-up-to-monument-valley-found-its-perfect-home-on-apple-arcade/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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