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【Please, Touch The Artwork】ゲームとアートをつなぐ「こんなの○○じゃない」の法則【インディーゲームレビュー 第110回】

ゲームとアートは双子の兄弟のような存在だ。中でもメディアアートはゲームと紙一重といってもいい。現代アートがモチーフの『Please, Touch The Artwork』は、その斬新なアイディアで、両者をつなぐ架け橋になろうとしている。


「こんなの○○じゃない」が牽引してきたゲームとアート

ゲームはこれまで「KGN」の法則で成長してきたと筆者は考えている。

すなわち、
K:こんなの
G:ゲームじゃ
N:ない
の意味だ。

『ドラゴンクエスト』シリーズは好例で、「謎の答えを知り、時間をかけてレベルアップすれば誰でもクリアできる」として、腕に覚えのあるゲーマーから批判された。当時はスコアラー文化の全盛期で、ゲームが上手いことが称賛される風潮が強かったのだ。

しかし実際は「誰でもクリアできる」点が一般層に受け入れられて、大ヒットを記録した。『弟切草』『怪盗ロワイヤル』など、他にもさまざまな例が挙げられるだろう。

アートの世界も同様だ。印象派の登場は好例で、パリのアカデミーから批判された。しかし、絵画市場が拡大していたアメリカで受け入れられ、大きな潮流となった。20世紀に入るとこの流れが加速し、パブロ・ピカソ、アンディ・ウォーホル、マルセル・デュシャンなど、新進気鋭の芸術家によって古典的な芸術観の解体と再構築が進んでいく。

まさに鑑賞者が、
K:こんなの
A:アートじゃ
N:ない
と批判するような作品が次々に登場し、アートの幅を広げていったのだ。

今回レビューする『Please, Touch The Artwork』のモチーフとなったピート・モンドリアンもそうしたアーティストの一人だ。19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したオランダ出身の画家で、抽象絵画の草分けの一人だとされる。

中でも『コンポジション』として知られる、水平と垂直の直線で分割された画面に、赤・青・黄の三原色のみをもちいて描かれた作品群は有名で、ミニマル・アートをはじめ、後生の作品に大きな影響を与えている。(参考:ピート・モンドリアン『コンポジション II』ベオグラード国立博物館

ゲーム画面を見れば分かるように、『Please, Touch The Artwork』はモンドリアンの一連の作品を、そのままパズルにしている点が特徴だ。


収録されているのは3種類。「1.お手本に即してタイルの色を塗りわけ、手順内に作品を完成させるもの」、「2.交差点の規則をふまえつつ、四角形のBoogieをWoogieのもとに送り届けるもの」、「3.スタートからゴールまで迷路を辿りながら、単語を完成させていくもの」となる。終了したパズルはギャラリーに展示されると共に、モンドリアンの人生や作風などに関する解説文が徐々に読める仕組みになっている。




ゲームとアートの架け橋が美術館で体験できる日は来るか

もっとも、本作の目的はパズルを解かせることではない。どのパズルも難易度が低く、1のパズルにいたっては、ヒント機能を活用すれば誰でもクリアできてしまうほどだ。デモ版という位置づけもあり、多くの人が数時間程度で終了できるだろう。

しかし、そこで得られるのは「現代アートを触る」という、本作ならではの体験だ。はたして本作はゲームなのだろうか。それともメディアアートなのだろうか。そもそも、ゲームとアートの境界線はどこにあるのだろうか。さまざまなことを問いかけてくる作品だろう。

ちなみに、「ゲームデザイン」という言葉があるとおり、ゲームは作り手によって、受け手の体験がデザインされるものだ。そのため一般的に、作品から作り手の意図がハッキリと感じられるゲームが良いゲームだとされる。これに対して優れたアートは、鑑賞者ごとにさまざまな感想や見方が可能だ。こうした点からも本作はアートとゲームの中間点にあるといえるだろう。

ゲームについて考えているはずが、いつの間にかアートについて考えることになり、その逆も同様……こうしたトートロジーが本作ならではの魅力だと言える。


もっとも、だからこそ本作はPCゲームという枠組みに留まるものではないだろう。すでに本作はスマートフォン版やコンソール版での展開も予定されている。では、本作を美術館に並べて「鑑賞」できるとしたらどうだろうか。そこでこそ本作の『Please, Touch The Artwork』というタイトルや、そこに込められたメッセージが生きることになるだろう。

本作を開発中のStudio Waterzooiはベルギーにある個人ゲームスタジオで、まさに「ゲーム作家」の作品だ。いつの日か本作がモンドリアンの作品と並んで、美術館で体験できるようになることを期待したい。

metacriticスコア:なし
主な受賞歴:Nominee INNOVATION IN GAMES Ludicious、Winner VERY BIG INDIE PITCH 2019など

Steam『Please, Touch The Artwork』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1097100/Please_Touch_The_Artwork/
Studio Waterzooi 公式サイト
http://www.studiowaterzooi.com/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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