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『Night in the Woods』におけるメッセージ性と、ゲームの三要素のゆらぎ【インディーゲームレビュー 第76回】


ゲームの要素を曖昧にすることで可能性が広がる

文筆家・ゲーム作家の山本貴光氏は「目的」「障害」「手段」をゲームの三要素にあげている。『パックマン』であれば、「ドットをすべて食べること(目的)」「触れるとミスになるオバケ(障害)」「上下左右に移動できる仮想身体と、食べると一定時間無敵になり、逆にオバケを食べられるパワーエサの存在(手段)」というわけだ。

このようにゲームの要素が定義されれば、逆に各要素を曖昧にしていくことで、ゲームの可能性を論じることもできる。『どうぶつの森』シリーズは好例で、当初から「ゲームクリアの概念がないゲーム」として開発された。つまり、目的が曖昧なゲームとして制作されたのだ。

そのため、オリジナル版がリリースされた当時は、「これはゲームなのか」と論争が起きた。しかし、最新作『あつまれ どうぶつの森』は6週間で1300万本を越える大ヒットを記録するまでに成長している。つまり同作によってゲームの境界が広がり、ゲーム文化がより豊かになった……このように位置づけられるだろう。



トランプという怪物を生んだアメリカが抱える闇を表現

どん詰まりの田舎町で人生に生きづらさを抱えた主人公のメイとなり、同じくさまざまな事情を抱えた友人たちと日々を過ごしていきながら、知らず知らずのうちに町を巡る大きな闇に頭を突っ込んでいくアドベンチャーゲーム『Night in the Woods』もまた、ゲームの可能性を広げようとしているタイトルだ。

心の闇を抱えて大学を中退したメイは故郷のポッサム・スプリングに戻り、今日も人生を迷走中。かつての友人たちと一緒に遊び始めるものの、すべてが昔通りというわけにはいかず、時に立場の違いが浮き彫りになったり、人間関係で悩んだりすることも。そんな中、旧友の一人が不可解な失踪を遂げ……というストーリー。

アメリカの東部ラストベルト地帯をモチーフとした背景や、動物を擬人化したキャラクターたちは、マンガ的でありながら繊細だ。中でも自然の色使いは絶妙で、アイデンティティの確立というテーマや、若干のホラー要素とも相まって、スティーブン・キングの小説を読了した時のような印象を与えている。

ポイントは本作が米トランプ政権誕生直後の2017年2月にリリースされたことだ。本作の「社会のコミュニティを大切にするがゆえに、ゆっくりと終わりを迎えつつある世界」という設定は、まさに現代のアメリカが抱える闇を象徴している。本作がIGF2018で大賞を受賞したのも、こうした文脈と無縁ではないだろう。

もう一つのポイントは、アドベンチャーゲームならではの大量の情報を、過不足なく日本語化したゲームならではの翻訳技術だ。ローカライズはプレイズムが行っており、テクスチャフォントの描き起こしをはじめ、随所に職人技が光る。日本語版が発売されたことが奇跡のタイトルであり、業界関係者なら必見だろう。



迷ったら出てこられない「夢」の描き方は適切か?

ただし、本作で喉に刺さった小骨のように感じられる点がある。それが冒頭で論じた「目的・障害・手段」の揺れ具合だ。本作は広義の意味でのビジュアルノベルゲームの一つに位置づけられ、基本的にどのような行動や選択肢を選んでも、ストーリーは大きく変化しない。そのため初心者でも安心してゲームが進められる。

しかし、メイが悪夢の世界を探索するシーンは例外だ。ちょっとしたパズル仕立てになっていて、クリアできなければゲームが先に進められない。その一方で夢の中が意識されているのか、ステージの構成がわかりにくく、ルートが見つけにくい。残念ながら筆者には自力でのクリアは不可能で、実況動画の助けを借りることになった。

理由として考えられるのが、通常シーンと夢のシーンとで、「目的・障害・手段」のバランスが変化していることだ。通常シーンでは巧みに抑えられていたパズル要素が、夢のシーンで急に前面に出てきたため、プレイ感の違いに戸惑ったのだ。これが最初からパズル性を重視した内容であれば、それなりの心構えで臨めただろう。

ゲームにはそれぞれ、想定ユーザーに即した「目的・障害・手段」のバランスがある。そして、それを安易にゲーム中に変化させるのは、ユーザーに無用の混乱を与えることになる。特に本作のようなストーリーゲームでは、より丁寧な配慮が必要だろう。より多くのプレイヤーに満足して終了してもらうことが、重要ではないだろうか。


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Steam『Night in the Woods』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/481510/Night_in_the_Woods/
『Night in the Woods』公式サイト
http://www.nightinthewoods.com/
PS4/Switch版で日本語版が出る『ナイト・イン・ザ・ウッズ (Night in the Woods)』とは、どんなゲーム?
http://blog.playism.jp/nightinthewoods/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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