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『Lu Bu Maker』日韓で進むゲームデザインの相互交流【インディーゲームレビュー 第54回】

現代人が異世界に転生して無双する「異世界転生モノ」。マンガや小説の定番ジャンルがゲームでも登場した。三国志の世界観で董卓となり、呂布を育てる『Lu Bu Maker』がそれだ。一見するとイロモノながら、骨太なゲームデザインが光る。


ゲームを企画する上で考えたい三要素

ゲームのペルソナ(=想定ユーザー)と世界観とゲームメカニクスには関連性がある。同じメカニクス(例:動く的にアイテムを当てるゲーム)でも、野球が好きな中学生男子と、SFが好きな高校生男子と、スイーツ好きの20代OLでは、それぞれ適した世界観が異なるのは当たり前だろう。ポイントはペルソナ→世界観→メカニクスという順番が不可逆的なことだ。結果的に同じメカニクスになっても、ペルソナから考えるのか、メカニクスありきで考えるのかでは、完成度に大きな差が出てくるからだ。

今回レビューする『Lu Bu Maker』も、ペルソナと世界観とゲームメカニクスの関係性を考える上で、興味深い示唆を与えてくれる。主人公は三国志で暴君として知られる董卓に転生してしまった現代人で、最強の武将として知られる呂布を養子に迎えた上で、「正しく」育成する必要に迫られる。史実で董卓は呂布に裏切られ、死んでしまうからだ。いわゆる「異世界転生モノ」のストーリーであり、お約束通り呂布をはじめ、武将はすべて美少女となる。

本作の開発は韓国インディーゲームスタジオのTalesshopで、小説が原作だ。つまり本作のペルソナは原作のファンで、当然世界観も原作に準拠することになる。ここからメカニクスも「董卓である主人公が義理の娘である呂布を育てる」という設定を活かして、コツコツとパラメーターを上げていく育成ゲームが選択された。実際、本作のメカニクスには美少女育成ゲームの代表作『プリンセスメーカー』(以下『プリメ』)からの強い影響がみてとれる。

「鍛錬」「依頼」「休息」の3ジャンルから、毎月3回ずつコマンドを選択する

日本の漫画・アニメ文化から大きな影響を受けているイラスト絵

過去20年間で企画力が大きく前進

育成期間は17歳から21歳までの4年間で、『プリメ』シリーズの特徴の一つだった、年を経るごとに外見が変わっていくなどの細やかさはない。しかし、イベントシーンをはじめとしたグラフィックの可愛らしさや、(呂布のみだが)韓国語ボイスの萌えっぷりもなかなかのものだ。ローカライズのクオリティも高く、国産ゲームと変わらない感覚で楽しめる。1周のプレイも90分程度で終了するため、気軽に何度も遊ぶにはもってこいだろう。

このように本作は、韓国のゲーム会社が日本の「なろう系小説」で人気の「異世界転生モノ」という設定と、日本で人気の「美少女だらけのファンタジー三国志」という世界観を使い、これまた国産ゲームの『プリメ』をベースに、オリジナルのゲームを作り上げた点に特徴がある。中でも重要なのが「董卓となって呂布を育てる」というアイディアだ。きちんと育てなければ自分が殺されてしまうことを、現代人である主人公が知っているという点が、メカニクスと見事にマッチしているからだ。

もっとも韓国ゲーム業界が「変わった設定の美少女育成ゲーム」を開発したのは、これが初めてではない。2001年にSeed9が開発・販売した『Tomak~Save the Earth~Love Story』(以下『Tomak』)がそれだ。神に滅ぼされようとする地球を救うために、地上に降臨した愛の女神に愛を注ぐという育成ゲームで、最大のポイントは女神が植木鉢に鉢植えになっていること。「生首育成ゲーム」として注目を集め、日本でもPCとPS2で発売された経緯がある。

『Tomak』(PC版)

ただし『Tomak』は「なぜ女神が生首なのか」「なぜ主人公が生首を育成するのか」など、せっかくの尖った設定が生かし切れておらず、出オチ感が強かった。これに対して『Lu Bu Maker』は設定に無理がなく、約20年間でゲームの企画力が格段に進歩したことがわかる。ゲーム中で呂布の因業を上げすぎると謀反が発生して主人公が殺されたり、董卓をはじめ主要武将6名との絆に応じてイベントが発生したりする点も、世界観と良くマッチしている。

主ペルソナは韓国なのか日本なのか

あえて気になる点があるとすれば、今後同社がどのペルソナにむけてゲームを作っていくかだろう。同社は日本市場を強く意識したゲーム開発を進めているが、日本ではメカニクスよりもストーリーを楽しみたいというニーズが強く、ビジュアルノベルゲームにトレンドが移行した経緯がある。今後、同社が日本市場を想定してゲーム開発を進めるなら、こうした「日本人のゲーマー」というペルソナを無視することは難しくなるだろう。そうなれば、同じ世界観であっても、それに適したメカニクスが求められることになる。

ともあれ、古くはMMORPGの『ラグナロクオンライン』から、近年ではバトルロワイヤルゲームの『荒野行動』に至るまで、過去20年間で韓国ゲーム業界の開発力は急速に向上してきた。本作についても、なぜ日本から同じようなコンセプトのゲームが登場しなかったのかと、歯がゆく思われるほどだ。UIで無駄なマウス操作が多い、立ち絵のバリエーションが少ない、演出力が弱いなど、ネガティブチェックを続ければキリがないが、こうした意欲作が韓国から登場してきたことを賞賛したい。

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■関連リンク
Steam『Lu Bu Maker』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/882900/Lu_Bu_Maker/
Talesshop 公式サイト
http://www.talesshop.com/
『Lu Bu Maker』公式サイト
http://www.talesshop.com/?page=product&query=yp
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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