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『Rebel Inc: Escalation』カジュアルな地域紛争解決ゲームに見る現実の抽象化と誇張化【インディーゲームレビュー 第65回】

ゲームは現実のシミュレーションだ。優れたゲームを制作するには、現実を適切に抽象化し、モデル化する行為が欠かせない。その上でエンタテイメントに昇華させるには、現実の誇張化が必要になる。

『Rebel Inc: Escalation』はこの2点を巧みに捉え、ゲームに落とし込んだタイトルだ。


アフガニスタン紛争がモチーフの意欲作

戦争で荒廃した国を安定させる地域紛争解決ゲーム『Rebel Inc: Escalation』。1億3000万人以上にプレイされたメガヒットゲーム『Plague Inc: Evolved』(以下、Plague Inc.)に続く、英Ndemic Creationsの第二弾だ。パンデミックをおこして人類を滅亡させる前作から一転。本作でプレイヤーは新たな統治者として君臨し、軍事と民間の投資バランスを管理しながら、雲霞の如く出現する反政府ゲリラを鎮圧し、地域に安定と繁栄をもたらしていく。

ゲームのヒントとなったのは、米史上最長の戦争となったアフガニスタン紛争だ。2001年9月11日、アメリカ同時多発テロ事件が引き金となり、米軍が主導する形で「不朽の自由作戦」が発動。2011年にビン=ラディン容疑者が米特殊部隊によって殺害され、タリバン政権が崩壊してからも、現地では断続的な武力衝突が発生している。第三者が地域に安定と平和をもたらすことが、いかに難しいかが良くわかるだろう。

この混沌とした状況をゲーム化する上で同社は『Plague Inc.』と同じく、抽象化と誇張化の手腕をフルに活用してきた。最大のポイントは1ゲームが20分程度で終了することだ。地域紛争がテーマのシミュレーションゲームと聞いて、誰がこんな短時間でゲームが終了すると想像するだろうか。それが可能なのも高度な抽象化と誇張化ゆえだ。裏を返せば、本作の要素は現実の地域紛争を極限までそぎ落としている。だからこそ、ゲームを遊んで現実感が得られるのだ。

収録されているマップは現在7種類で、それぞれ3つの難易度がある。もっとも現在は早期アクセス段階なので、今後増える可能性もある

オペレーション画面ではコストを払ってインフラ整備や軍事拡充を進めていく。UIデザインに『Plague Inc.』からの系譜が伺える

ゲーム攻略のコツは「バランス感覚」

ゲームは唯一の資源である資金を使いながら、オペレーション画面と地図画面を状況にあわせて切り替えつつ進めていく。オペレーション画面では民間・政府・軍事のそれぞれに投資でき、インフラ整備などが行える。地図画面ではオペレーション画面で投資した軍事部隊を展開し、ゲリラの掃討が可能だ。

ゲームはリアルタイムに進行するが、速度を任意に調節でき、一時停止もできるため、それほど忙しくはない。ただし、つい夢中になって思慮の浅い行動をとりがちなので、注意が必要だ。

マップの右上に追い詰められたゲリラ部隊。掃討には3~4部隊の連携が必要だ

本作でもっともユニークな点が、ゲリラの掃討だろう。地図はエリアで区切られており、プレイヤーは戦闘部隊を派遣して、エリア単位でゲリラを追い詰めていく。この時、退却ルートがあるとゲリラが他のエリアに移動してしまうため、包囲殲滅するには3~4部隊の同時展開が必要となる。なお戦闘部隊には、編成が速くて強力だが活動時間に制限がある連合軍(=多国籍軍)と、その反対の特性を持つ自国軍がある。的確にゲリラを掃討するには、両者のバランスをとることが重要だ。

ただし、軍事にかまけてインフラ投資を怠っていると、どんどん評価値が減少していく。評価値がゼロになるとゲームオーバーだ。そのためインフラ投資を進めて、経済を豊かにしながら、可能な範囲で軍事活動を行っていこう。急激なインフラ投資はインフレや汚職の増加をまねくので、こちらも注意が必要だ。一方でゲリラを放置したままでいると、これまた評価値が下がる。ここでも求められるのはバランス感覚だ。さまざまな状況を考慮しながら、最大公約数を求め続けることが重要なのだ。

他にゲームを進める中で、「空軍が誤って民間施設を誤爆した~真実を公表するか否か」などの選択肢イベントが多発する。人道的には公表した方が良いが、それによって評価値が下がるのは問題だ。ゲーム後半では「反乱軍の指導者と妥協するか否か」といった選択肢イベントが増加する。安易な妥協にNOといえば、そのぶん評価値は上がるが、ゲリラの攻勢が激しくなり、和平が遠のく。時にはゲリラと欺瞞に満ちた一進一退を続けながら、時間を稼ぐ必要もあるだろう。

反乱軍と和平のテーブルにつくか否か……タイミングはプレイヤー次第だ

テーマ選択がもたらす抽象化と誇張化

このように本作のキーワードは「バランス感覚」だ。リアルタイムに変化する状況の中で、戦略を適切に変化させ続けた者だけが勝利者になれる。唯一無二の正解は存在せず、常に臨機応変であること……それが生き残りの鍵というわけだ。裏を返せば、本作はこのコンセプトに不要な要素はバッサリと切り捨てている。部隊操作とインフラ選択とイベント選択肢を選ぶ以外は、これといってやる必要はないくらいだ。この割り切りが20分というプレイ時間を実現している。

もっとも、あらゆるゲームは現実の抽象と誇張だといえる。ファンタジーRPGは好例で、技術レベルを中世に抑える一方で(=抽象)、魔法というケレン味を加えた(=誇張)。『GTA』シリーズも同様で、法に従う必要の無い世界はシンプルで、法の制約を超越した行動は強力だ。本作もまた紛争解決というテーマ設定にもとづき、通常の法律や規則はすべて無視され、統治者に権力を集中させている。実に「ゲームらしいゲーム」だといえるだろう。

© 2019 Ndemic Creations

■関連リンク
Steam『Rebel Inc: Escalation』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1088790/Rebel_Inc_Escalation/
『Rebel Inc: Escalation』公式サイト
https://www.ndemiccreations.com/en/51-rebel-inc
開発スタジオ「Ndemic Creations」公式サイト
https://www.ndemiccreations.com/en/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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