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『Neon Beats』学生チームが作り出した音と映像の心地よい体験【インディーゲームレビュー 第83回】

フランスの学生チームが制作し、「Independent Games Festival(IGF)2020」スチューデントアワードでノミネートされたアクションゲーム『Neon Beats』。ミニマルなアートワークに加えて、サウンドとレベルデザインの融合がゲームの原始的なおもしろさを演出している。


意図を持って選択されたミニマルなグラフィックデザイン

参加者間で即席チームを作り、数十時間でゲームを作り上げるゲームジャム。ここでしばしば直面する課題がアーティスト不足だ。中にはチーム全員がプログラマーという例も少なくない。開始早々、メンバーのモチベーションが急低下する瞬間だ。

しかし『Neon Beats』を遊べば、そうした姿勢は的外れであることがわかる。その名の通り、ネオン管のようなミニマルなグラフィックデザインが際立つ秀作だからだ。開発したのは当時、仏リヨンの美術系大学、Bellecour Écoleに通っていた5名の学生たち。その完成度の高さから、IGF2020スチューデントアワードにノミネートされる偉業を成し遂げた。

IGFの公式ニュースサイトとも言うべき米Gamasutraでは、「Road to the IGF: OKYO GAMES' Neon Beats」と題して開発チームのインタビューを掲載している。

それによると、本作は学校の8週間による課題で作られ、制作テーマは「フィーリング・グッド(心地よい体験)」だった。また、他に「暴力的でないこと」「片手で遊べること」「色覚マイノリティに配慮すること」などの条件がつけられた。チームはこうした制約から「ゲームプレイと音楽を、シンプルでミニマルなアートスタイルでリンクさせることを選択した」という。学生離れした優れたセンスが伺える。


レベルデザインとサウンドデザインが高レベルで結実

ゲームは四角形の自キャラを操作して、障害物に触れないようにゴールまで移動させるアクションゲームだ。ステージには当たると即死するトゲや、一定周期で動いたり、点滅したりする床、ぶらさがってスイングできるロープ、高く飛び上がれるジャンプ台といった、さまざまなギミックが配置されている。自キャラも移動したり、ジャンプしたりできるほか、壁キックを繰り返して上昇したり、壁を伝ってゆっくり落下したりと、シンプルながら遊びごたえのあるアクションができる。

ゲームを遊んですぐに気がつくのが、優れたレベルデザインだ。これには2つの意味がある。第1にステージの攻略難易度が徐々に上昇していくこと。通常ジャンプで、徐々に高い段差を乗り越えさせる、壁キックで段差を乗り越えさせる、壁キックの連続で、より高い場所に移動させる、床のトゲに触らないように、壁を伝って落下するなど、まさに教科書的だ。初代『スーパーマリオ』のワールド1-1を彷彿とさせる内容で、レベルデザインを学ぶ学生なら必見だろう。

もう一つは音楽とステージのギミックが連動していることだ。ゲームのBGMは(これもタイトル通り)ビートのきいた内容で、リズムにあわせて床が移動したり、回転したりする。リズムにあわせて操作していくと、ステージがスムーズに攻略できる仕組みだ。これにより、リズムゲームにも似た「音楽にあわせたゲーム体験」を演出している。音楽にあわせて体を動かすと気分が高揚する……これはダンスの根源的な魅力だ。これにより本作はテーマの「心地よい」を実現しているのだ。

前述のインタビューでも開発チームは「音楽とゲームプレイがうまくリンクすることで、『心地よい』体験が生まれると、私たちは考えています」と回答している。そして、この試みが高いレベルで達成されたからこそ、IGF2020のスチューデントアワードにノミネートという高評価が得られたといえる。


本作が開発者に提示した新たなゲーム像とは

ただ、本作には気になる点もある。BGMとSE(効果音)の関係性だ。本作ではジャンプ音に相当するSEが存在しない。壁キックやジャンプ台など、SEが再生されるアクションやギミックは存在するが、概して控えめだ。この点は有償版のDLC『A beat further』でも同様で、意図的にそうしていることがわかる。そのため、音楽との一体感やグルーヴ感という意味では、少し薄味に感じられる。

エフェクトも同様で、ミニマルさを通り越して、少し地味に感じさせるところもある。出身校のBellecour École公式サイトに掲載されたインタビュー記事によると、開発チームは『Geometry Dash』『Inside my Radio』に影響を受けたという。いずれも、ミニマルな2Dプラットフォーマーだが、よりエッジの効いたグラフィックになっている。本作においても、もう少し演出に凝っても良かっただろう。

かつてメディアアーティストの岩井俊雄は「ゲームを遊ぶことは楽器を演奏することと似ている」と語った。ステージは楽譜で、プレイヤーの行動は演奏。BGMが流れる中でプレイヤーがアクションし、それに応じてSEが鳴るという関係性は、即興演奏に近いというわけだ。これにエフェクトを加えて、ゲームプレイはVJに似ていると言えるかもしれない。

前述の通り、本作の完成度は決して低いものではない。しかし、人間の快楽欲求には際限がなく、これがゲームを進化させる原動力となってきた。音楽の即興演奏やVJのパフォーマンスにも似たゲーム体験を通して、プレイヤーを「心地よく」させるゲームを創り出すことは可能か。答えは一つだけではないだろう。本作のリリースは、世界中のゲーム開発者に対して、また新しい課題を提示したと言える。

©2020 OKYO GAMES

Steam『Neon Beats』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1064610/Neon_Beats/
Steam『Neon Beats - A beat further』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1256030/Neon_Beats__A_beat_further/
OKYO GAMES 公式サイト
http://okyogames.com/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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