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『Timelie』ゲームとパズル、それぞれのルールの違い【インディーゲームレビュー 第91回】
少女と猫、それぞれのタイムラインを操作して出口をめざす『Timelie』。時間操作を柱に据えたユニークなパズルゲームで、少女と猫の連携プレイが鍵を握る。本作はまた、ゲームとパズルのルールの違いについて、興味深い示唆を提示している。
アナログパズルでは、ルールは事前にプレイヤーに明示される。パズルを解く最中に、新たなルールが追加されることはない。
これに対してデジタルゲームでは、プレイヤーに明示されないルールが数多く存在する。そして、このルールをあきらかにしていくことが、ゲームの最終目的につながる場合が多い。これは現実世界でも同様だ。幼児は何度も転びながら、歩き方を学習していく。社会に出てからは資本主義という名のルールを学んでいくことになる。
このようにデジタルゲームと現実世界には似た部分がある。『Expand』のレビューで言及したように、デジタルゲームは「自分」と「世界」と、その関係性で記述される。これは現実世界でも同様だ。つまり、デジタルゲームとは記号化された現実世界なのだ。この点がアナログパズルと大きく違う点となる。
その一方でデジタルゲームの中には、パズル要素を含んだものがある。もっとも、ここで言うパズル要素とは、『テトリス』などの反射神経を要するものとは異なり、ゲームの進行を中断させ、プレイヤーに謎を提示するようなものだ。中には「脱出ゲーム」のように、全編がパズル要素で構成されているゲームも存在する。
そのうえで、本作の主要な構造を『Night in the Woods』で言及したゲームの三要素(目的・障害・手段)をもちいて分析すると、次のようになる。これらが本作の「ルール」だ。
目的:少女と猫をステージのゴールまで到達させるためのルートを発見する。
障害:警備ロボット(触れるとミスになる)
手段:少女と猫でそれぞれの時間軸(タイムライン)を操れる。【少女】入手したアイテムを消費することで、壊れた道を修復したり、警備ロボットを無力化したりできる。【猫】鳴き声をあげて警備ロボットの注意を引くことができる、換気ダクトを通って進める、少女より高速に移動できる。
本作の秀逸な点は、こうしたルールがゲームプレイを通して徐々に提示されていくこと。そして、必要なルールが事前に明示されることだ。チャプター1は少女だけ、チャプター2は猫が登場、チャプター3では少女と猫が別行動をとり、チャプター4では再び合流するが、時間制限が厳しくなる。そしてチャプター5では……という構造だ。
他のゲームと同じく、本作でもプレイヤーは何度もミスを重ね、そのたびにやり直しを要求されることになる。しかし、不条理に感じられる部分は(少なくとも筆者には)ない。パズルゲームとしてフェアな作りになっており、好感が持てる。チャプター5のルールの出し方は微妙だが、応用編の範疇だろう。
裏を返せば、デジタルゲームにおけるパズル要素には、この点が担保されていないものも多い。ゲームデザイナーがルールを提示しているつもりでも、プレイヤーが気づかなければ、提示していないのと同じだ。もっとも、プレイヤーの「ルールに気づく力」は一人ひとりの能力やコンテキストに依存する。だからこそ、ゲームデザイナーはパズル要素を組み込む際、必要以上に慎重になる姿勢が求められるのだ。
その中でも、ルールが事前にプレイヤーに明示されていない場合、人は後者の反応をみせやすい。とはいえ、繰り返しになるが、ルールに気づく力はプレイヤーのスキルに起因する。つまり、万人に対して優れたパズルは存在せず、その人にとっての「良いパズル、悪いパズル」があるだけだ。そのうえで、筆者にとって『Timelie』のパズルは、真っ当だったと明記しておきたい。
ただし、多くのゲームと同じく、本作にも微細な改善点が見受けられる。キャラクター間の当たり判定の問題だ。
本作では少女と猫の移動ルートを、床に設定されたポイントをたどりながら、マウスで設定していく。少女と猫、そして警備ロボットは、このポイントごとに、シームレスに移動していく。ここで2つの問題が発生する。
第一に、ポイントがヘックスではなくスクエア状に配置されているので、縦横と斜めで移動距離が異なること。第二に、タイムラインを操作するシークバーの操作性があまり良くないことだ。微妙なタイミングで警備ロボットと交錯してしまい、ミスが発生してしまう。特にタイミングが厳しくなる終盤では、この傾向が見られた。
これを解決するには、完全なターン制にするのも一案だ。ヘックスではなくスクエア移動にこだわるなら、斜め移動の意味を強調するようなマップにしてもいいだろう。完全なターン制では、思わぬ「事故」(これが裏ワザやバグ技の一因になる)が発生せず、つまらないということなら、シークバーの操作、すなわちUI・UXの部分でひと工夫ほしかった。
もっとも、本作の最大のポイントは、これがスタジオの処女作ということだ。タイの学生プロジェクトがベースで、Microsoftが主催する学生ITコンテスト、Imagine Cup2016でファイナリストに選出されたことがきっかけとなり、製品化にいたった。次回作が今から楽しみだ。
metacriticスコア:77
主な受賞歴:BIDC2020 GAME OF THE YEAR
Steam『Timelie』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1150950/Timelie/
2016 年度 Imagine Cup 世界大会 ファイナリストチームのご紹介
https://news.microsoft.com/ja-jp/2016/06/27/blog-imagine-cup-2016/
Timelie interview: A Urnique puzzle game(英語)
https://gamefreaks365.com/timelie-interview-a-cat-robots-and-time-manipulation/
ゲーム内パズルのデザインで重要なこと
デジタルゲームとアナログパズル(クロスワードパズルでも、ルービックキューブでも、なんでもいい)は、似て非なる存在だ。どちらもルールの集合体だが、その性質が異なっているからだ。アナログパズルでは、ルールは事前にプレイヤーに明示される。パズルを解く最中に、新たなルールが追加されることはない。
これに対してデジタルゲームでは、プレイヤーに明示されないルールが数多く存在する。そして、このルールをあきらかにしていくことが、ゲームの最終目的につながる場合が多い。これは現実世界でも同様だ。幼児は何度も転びながら、歩き方を学習していく。社会に出てからは資本主義という名のルールを学んでいくことになる。
このようにデジタルゲームと現実世界には似た部分がある。『Expand』のレビューで言及したように、デジタルゲームは「自分」と「世界」と、その関係性で記述される。これは現実世界でも同様だ。つまり、デジタルゲームとは記号化された現実世界なのだ。この点がアナログパズルと大きく違う点となる。
その一方でデジタルゲームの中には、パズル要素を含んだものがある。もっとも、ここで言うパズル要素とは、『テトリス』などの反射神経を要するものとは異なり、ゲームの進行を中断させ、プレイヤーに謎を提示するようなものだ。中には「脱出ゲーム」のように、全編がパズル要素で構成されているゲームも存在する。
『Timelie』の「ゲームの三要素」を分析する
本作『Timelie』も同様だ。少女と猫、それぞれのタイムラインを操り、多数の警備ロボットが待ち構えるステージに進入して、相手の目をかいくぐりながらゴールをめざしていく。アクション要素はなく、少女と猫を協力させながら、脱出ルートを見つけ出すのが目的だ。いわば「ステルスパズル」といったところだろう。そのうえで、本作の主要な構造を『Night in the Woods』で言及したゲームの三要素(目的・障害・手段)をもちいて分析すると、次のようになる。これらが本作の「ルール」だ。
目的:少女と猫をステージのゴールまで到達させるためのルートを発見する。
障害:警備ロボット(触れるとミスになる)
手段:少女と猫でそれぞれの時間軸(タイムライン)を操れる。【少女】入手したアイテムを消費することで、壊れた道を修復したり、警備ロボットを無力化したりできる。【猫】鳴き声をあげて警備ロボットの注意を引くことができる、換気ダクトを通って進める、少女より高速に移動できる。
本作の秀逸な点は、こうしたルールがゲームプレイを通して徐々に提示されていくこと。そして、必要なルールが事前に明示されることだ。チャプター1は少女だけ、チャプター2は猫が登場、チャプター3では少女と猫が別行動をとり、チャプター4では再び合流するが、時間制限が厳しくなる。そしてチャプター5では……という構造だ。
他のゲームと同じく、本作でもプレイヤーは何度もミスを重ね、そのたびにやり直しを要求されることになる。しかし、不条理に感じられる部分は(少なくとも筆者には)ない。パズルゲームとしてフェアな作りになっており、好感が持てる。チャプター5のルールの出し方は微妙だが、応用編の範疇だろう。
裏を返せば、デジタルゲームにおけるパズル要素には、この点が担保されていないものも多い。ゲームデザイナーがルールを提示しているつもりでも、プレイヤーが気づかなければ、提示していないのと同じだ。もっとも、プレイヤーの「ルールに気づく力」は一人ひとりの能力やコンテキストに依存する。だからこそ、ゲームデザイナーはパズル要素を組み込む際、必要以上に慎重になる姿勢が求められるのだ。
タイの学生チームが起業してリリース
余談だがパズルがどうしても解けないとき、多くのプレイヤーはどうするだろうか。今ならネットで攻略法やプレイ動画を検索するのが一般的だろう。そうして答えを知ったとき、どのように感じるだろうか。「なるほど、その手があったか!」と膝を打つか、「そんな答え、わかるわけがない!」と怒り出すか、どちらかではないだろうか。優れたパズルは前者であり、ダメなパズルは後者だ。その中でも、ルールが事前にプレイヤーに明示されていない場合、人は後者の反応をみせやすい。とはいえ、繰り返しになるが、ルールに気づく力はプレイヤーのスキルに起因する。つまり、万人に対して優れたパズルは存在せず、その人にとっての「良いパズル、悪いパズル」があるだけだ。そのうえで、筆者にとって『Timelie』のパズルは、真っ当だったと明記しておきたい。
ただし、多くのゲームと同じく、本作にも微細な改善点が見受けられる。キャラクター間の当たり判定の問題だ。
本作では少女と猫の移動ルートを、床に設定されたポイントをたどりながら、マウスで設定していく。少女と猫、そして警備ロボットは、このポイントごとに、シームレスに移動していく。ここで2つの問題が発生する。
第一に、ポイントがヘックスではなくスクエア状に配置されているので、縦横と斜めで移動距離が異なること。第二に、タイムラインを操作するシークバーの操作性があまり良くないことだ。微妙なタイミングで警備ロボットと交錯してしまい、ミスが発生してしまう。特にタイミングが厳しくなる終盤では、この傾向が見られた。
これを解決するには、完全なターン制にするのも一案だ。ヘックスではなくスクエア移動にこだわるなら、斜め移動の意味を強調するようなマップにしてもいいだろう。完全なターン制では、思わぬ「事故」(これが裏ワザやバグ技の一因になる)が発生せず、つまらないということなら、シークバーの操作、すなわちUI・UXの部分でひと工夫ほしかった。
もっとも、本作の最大のポイントは、これがスタジオの処女作ということだ。タイの学生プロジェクトがベースで、Microsoftが主催する学生ITコンテスト、Imagine Cup2016でファイナリストに選出されたことがきっかけとなり、製品化にいたった。次回作が今から楽しみだ。
metacriticスコア:77
主な受賞歴:BIDC2020 GAME OF THE YEAR
Steam『Timelie』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1150950/Timelie/
2016 年度 Imagine Cup 世界大会 ファイナリストチームのご紹介
https://news.microsoft.com/ja-jp/2016/06/27/blog-imagine-cup-2016/
Timelie interview: A Urnique puzzle game(英語)
https://gamefreaks365.com/timelie-interview-a-cat-robots-and-time-manipulation/
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