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『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』登場人物の死を積み重ねて生を描く【インディーゲームレビュー 第17回】

 
ゲームとはプレイヤーに対して「擬似的な死」を何度も繰り返させるメディアだ。では、エピソードがすべて「死」で終わるとしたら……。『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』は、ゲームが持つ構造的な特性を十二分に活用したアドベンチャーゲームだ。

ゲームは「擬似的な死」の連続で進行する

以前『RiME』のレビューで解説したとおり、操作キャラクターとはゲーム内世界でプレイヤーが自由に動き回れるための、「拡張された身体」だ。レースゲームで体が左右に揺れるのも、プレイヤーが脳内で拡張された身体を認識しているからだ。その一方で他のエンタテインメントと比較した際のゲームの特徴にその再挑戦性がある。実際に、ゲームを通してプレイヤーは何度もミスを重ねつつ、次第に上達していく。つまりゲームとは、プレイヤーに「擬似的な死」の繰り返しを強要するメディアだと言える。

今回取り上げる『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』は、アドベンチャーゲームの文法をとりながら、この「死の繰り返し」を唯一無二のスタイルで表現している。プレイヤーはフィンチ家の生き残りである17歳の少女・エディスとなり、かつて自分が暮らした屋敷を探索していく。アクションゲームのように、エディスは操作ミスなどで死ぬことはないが、そのかわりにプレイヤーは同じように屋敷で暮らした親族の「死に様」を、何度も何度も、さまざまな形で追体験していくことになる。

ストーリーはエディスのモノローグで語られ、レベルデザインに応じて配置されている。これによりプレイヤーはモノローグが表示される方向に移動することで、迷うことなくゲームを進めていける

各々の部屋は個性を示すアイテムで満ちあふれている。これはホラー映画の子役として一世を風靡したバーバラの部屋で、映画関連のアイテムが大量に残されている

ノンバーバルなパズルゲームからの飛躍

ゲームはエディスの主観視点で進行し、大半が屋敷内での探索に費やされる。屋敷には扉が閉ざされた親族の部屋があり、プレイヤーは隠された通路を通って部屋に移動し、そこで死因につながるメモなどを発見する。これが鍵となり、親族各々の物語が提示される。この物語は3DCGの一人称アドベンチャーからデジタルコミックまで多岐にわたり、いずれも唯一無二の内容となっている。すべての物語は親族の死で終了し、系統図に名前が書き込まれる。この繰り返しでゲームは進んでいく。

屋敷は親族が生まれる度に建て増しが続けられた結果、今では迷宮の様相を呈している。しかし、パズル性は乏しく、ストーリーも一本道で進んでいく。秀逸なのはエディスのモノローグが空間に浮かび、ストーリーを解き明かしていくと共に、屋敷内の探索における自然な誘導手段になっていることだ。これにより、プレイヤーは迷うことなく屋敷の探索を進めていける。また、各々の物語は十数分、ゲーム自体も数時間で終了する。モダンホラー小説が好きなら間違いなくオススメの内容だ。

本作を制作したのは、『the Unfinished Swan』で鮮烈なデビューをはたした、Giant Sparrowだ。前作はテキストを一切廃したアート的なパズルゲームだったが、本作は他に類を見ないナラティブゲームへと変貌した。特にテキストを効果的に用いることで、より複雑な心情を提示することに成功している。早世を続けたフィンチ家のエピソードを描くことで、相対的に浮かび上がってくる「残された者の思い」がそれだ。特に例外的に長寿であった二人の女性がキーマンとなる。

各々の物語は多彩な映像スタイルで表現されている。デジタルコミックで再現されるバーバラの物語(上)と、缶詰工場で働きながら空想世界に取り込まれていったルイスの物語(下)

過去の追体験と世界の解明

このように、過去におきた出来事を解き明かしながら、世界の在り方に迫っていくスタイルは、これまでに何度もゲームで使われてきた定番の手法だ。ゲームに限らず、人類は「過去の出来事を記録する」という発明を通して、さまざまなエンタテイメントに活用してきた。探偵小説において読者は探偵が行う捜査活動を通して、犯人の犯行を追体験していくといった具合だ。そして真犯人が見つかったとき、世界の在り方は解き明かされ、物語は結末を迎える。

本作ではこれと同じ構造を、さまざまな操作キャラクターの重層的な視点を通して、巧みに作り上げている。親族の死をエディスの視点を通して疑似体験させ、そのエディスもまた……といったように。そのうえでゲームならではの「拡張された身体」という特性を用いて、プレイヤーに対して自己同一視を、より容易に行える仕組みを提示した。死を積み重ねて生を描くという本作のコンセプトも、また実にゲーム的なアプローチだったといえる。


■関連リンク
『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』
http://www.giantsparrow.com/games/finch/
『the Unfinished Swan』
http://www.giantsparrow.com/games/swan/
Giant Sparrow
http://www.giantsparrow.com/
Steam『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』のページ
http://store.steampowered.com/app/501300/What_Remains_of_Edith_Finch/

【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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