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『Tooth and Tails』アメリカ人が作ったロシア革命のパロディRTS【インディーゲームレビュー 第31回】

10分で1ゲームが終了するカジュアルRTS(リアルタイムストラテジー)『Tooth and Tails』。同ジャンルのエッセンスを凝縮させたタイトルだ。本作のポイントは生産に必要なリソースに限界があること。背景には海外の厳しい自然観がある。


そのリソースは有限か?

『貝と羊の中国人』(加藤徹、新潮文庫)によると、中国の歴史には「王朝が安定すると人口が増え、経済が発達するが、一定域を超えると人民が飢えて減少し、社会が不安定化。次の王朝に取って代わる」というパターンが見られるという。これに対して日本では、一揆が多発しても政権交代には至らなかった。背景にあるのが豊かな自然風土で、八百万の神に代表される日本特有の宗教観を生み出す苗床にもなった。

こうした自然観はゲームデザインにも影響を与える。好例が『信長の野望』で、石高と人口が最大値になった後でも減少に転じることはない。これに対して本作『Tooth and Tails』では耕作を続けると土地が痩せていき、やがて食料生産がゼロになる。食料は唯一の生産資源なので、食料がゼロになると部隊補充や施設復旧などができず、敗北を待つのみとなる。生き延びるためには他勢力を侵略するしかないのだ。

こうしたゲームデザインを裏打ちするように、ゲームの舞台も食料を巡って4勢力に分かれ、内戦を行っている動物たちの国々だ。各々の指導者はネズミだが、兵士達は火炎放射器をもったイノシシなど怒れる動物たちばかり。この動物たちを操って、敵対勢力の食料を絶やすのが目的だ。開発は米サンディエゴのPocketwatch Gamesで、アメリカ人が作ったロシア革命のパロディゲームとも読み取れる。

フラッグを持った指導者キャラクターを操作し、部隊を誘導して攻撃していく。マウスとキーボードだけでなく、コントローラーでの操作にも対応している

ゲームは青いコートを着たLoncorts陣営からスタートする。Longcoats=イギリス、Commonfolk=ソ連、KSR=旧ドイツ、Civilized=イタリアのイメージだ

本作の最大のポイントはRTSにおける「施設生産→部隊育成→敵陣への侵攻→征服」という一連のプロセスを、10分程度に凝縮させた点にある。前述の通り食料生産に限りがあるので、自陣地に籠もると必ず敗北する。先手必勝、攻撃は最大の防御が本作ほど似合うタイトルはない。自衛に必要な最低限度の防御力を保持しつつ、できるだけ早く軍事力を増強し、敵陣地になだれ込むのが勝利の秘訣となる。

もっとも、ゲームが単調にならないためには、運とスキルのバランスが取れていることが必要だ。そのため、本作ではマップがすべてランダムに生成される。また、プレイヤーははじめに15種類の攻撃用ユニットと5種類の防御用ユニットから6種類を選択して対戦にのぞむことになる。地形が毎回変わり、相手方のユニット編成もわからないため、常に変わった展開や駆け引きが楽しめる。

操作キャラクターがマウスカーソルの役割を果たしている点も特徴の一つだ。プレイヤーはゲーム中、指導者キャラクターを操作してマップを偵察できる。その一方で施設生産や部隊移動を行うには、指導者を目的地まで移動させる必要がある。このように非常に重要な存在にもかかわらず、攻撃手段は用意されていない。戦況に応じて、いかにマップ上をうまく立ち回るかがポイントだ。

ゲームメカニクスのシンプルさは、大味な展開にもつながる。実際、本作では一度隙を見せれば他勢力から滅多打ちにあい、そこから立ち直ることは難しい。複数の部隊による連係攻撃といった戦法も現実的ではない。もっとも、プレイ時間が短いため、敗北しても精神的な疲労感が少ない。その一方で、圧倒的な勢力で敵陣を蹂躙する楽しさは格別だ。そのため、何度も繰り返し遊んでしまうことになる。

20体のユニットはそれぞれ獣人化され、さまざまな特殊能力を持つ。カメレオンは肢体を透明化することができ、攻撃力も高い主力ユニットの一つだ

マルチプレイでははじめに各勢力が使用ユニットを6体まで決定する。各ユニット編成はゲーム開始まで隠匿され、他に漏れることはない

マルチプレイでは最大4勢力が入り乱れて戦いを繰り広げる。1対3など、さまざまな対戦設定が可能で、COMとの対戦も可能だ。これに対してストーリーモードでは「一定数のユニットのみで敵陣を撃破」など、多彩なミッションが楽しめる。テーマがシニカルな一方、ピクセルアートによるグラフィックが秀逸で、ちょこまかとマップ上を動き回る動物たちを見るのも楽しい。

また、本作の魅力は革命軍を率いて戦う物語体験にもある。IGF2018のナラティブアワードにノミネートされるなど、その内容は折り紙付きだ。ただし日本語訳が不十分なため、その魅力が伝わらないのも事実。『UNDERTAIL』のレビューで論じたとおり、ゲーム翻訳はゲームの魅力を左右する大きな要因の一つ。現状のファンベースによる翻訳ではなく、ぜひ公式翻訳を期待したい。

ゲーム終了時にはユニット残数のグラフが表示される。青が押し切るかと思いきや、黃が粘って漁夫の利を狙い、大逆転勝利を収めた図だ

©2017 All Rights Reserved. Pocketwatch Games, LLC

■参考文献
「貝と羊の中国人」
http://www.shinchosha.co.jp/book/610169/

■関連リンク
Steam『Tooth and Tail』販売ページ
http://store.steampowered.com/app/286000/Tooth_and_Tail/
日本語化MOD(翻訳中)
https://steamcommunity.com/sharedfiles/filedetails/?id=1363644120
Pocketwatch Games 公式サイト
http://pocketwatchgames.com/


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