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『Haven』Co-opパートナーを迎えるためにデザインされたソロゲーム【インディーゲームレビュー 第102回】

恋愛ゲームは数多いが、成熟した男女の恋愛を正面から描いたゲームは数少ない。本作『Haven(ヘイヴン)』はこのテーマに挑んだ意欲作だ。アムールの国、フランスのゲームであり、かの地の恋愛事情を彷彿とさせる内容になっている。


さまざまな文化に影響を受けたフランスのアクションRPG

文化は伝播する。その際、しばしば外来文化が土着文化と交わり、新しい文化に変容する。特に日本はこの現象が多く、数々の日本料理が外国料理を参考に考案されてきた。あんパン、肉じゃが、カツ丼……数をあげればキリがない。RPGも同様で、『ウィザードリィ』に代表される、一攫千金を夢見る冒険者の世界は、『ドラゴンクエスト』によって少年マンガ的な冒険譚へと姿を変えた。こうして生まれたJRPGは世界に輸出され、現地の文化と交わって、多くのゲームを生みだしている。

今回とりあげるアクションRPG『Haven』もそのひとつだ。主人公は故郷の「エイピアリー」から逃れ、見捨てられた惑星「ソース」に逃げ込んだ恋人のケイとユウだ。誰も知らない世界で2人だけの人生を送るはずだったが、地震で宇宙船「ネスト」が破損してしまう。修理のため惑星を探索する過程で、徐々に隠された秘密が明らかになっていき……というストーリー。オープニングアニメを高津幸央氏が手がけるなど、日本のアニメ文化に影響を受けた作風が特徴だ。

開発はフランスのThe Game Bakersで、クリエイティブ・ディレクターのEmeric Thoa氏はインタビュー(※1)で『風ノ旅ビト』と『ペルソナ』が融合したようなゲームであり、そのストーリーを「ベースはロミオとジュリエットだけど、死ぬかわりに2人は宇宙に逃げた」と説明している。他に『ファンタシースター』『キャサリン』『ToeJam & Earl』、そしてイメージコミックの『Saga』などから影響を受けたという。さまざまな文化圏の影響が見られるゲームだといえる。


IMAGE COMICS『Saga』https://imagecomics.com/read/saga

SF版ロミオとジュリエット、ただし生命力は桁違い

一方で、もっとも大きな影響を及ぼしているのが、フランスの文化であることも、疑いようのない事実だろう。本作の最大の特徴である「成熟した男女の恋愛を描く」というテーマからも、そのことは明らかだ。多くのゲームでは「男女の出会いと恋愛の過程」をモチーフとしている。しかし、本作ではすでにカップルとなった男女が、見知らぬ惑星に駆け落ちした後の物語が描かれる。キスやハグ、ベッドシーンを暗示させる描写も数多い。アムール(愛)の国ならではのゲームだと言える。

本作にはジェンダー視点でも興味深い特徴がある。多くのゲームと男女の役割が逆転しているのだ。エンジニアでパイロットのユウ(女性)と、植物学者のケイ(男性)という設定は好例だ。ゲームを進めるとソースへの逃避行もユウが主導したことも明らかになる。2人の日常会話からも対等なパートナーシップであることがうかがえる。萌えやツンデレにあふれる国産ゲーム、あるいはララ・クロフトなどの女性戦士に慣れた目からすると、新鮮に感じられた。



ただし、だからといってユウが性的魅力と無縁というわけではない。ちょっとした会話や態度の端々から、チャーミングな女性であることがうかがえる。過去のゲームに存在しなかった、ユニークなキャラクターだといえるだろう。逆に女性プレイヤーからケイがどのように映るのだろうか。個人的には物わかりのいい草食男子といった印象を受けたのだが……。これがフランス人女性からみた理想の男性像(パートナー像)なのだろうか。機会があれば聞いてみたいところだ。



カップルで遊ぶことを意図したゲームデザイン

もっとも、ゲームシステムの面からは疑問も残る。好例がバトルのメカニクスで、2人は原則として同じ攻撃を繰り出せる。攻撃方法は近距離・遠距離・合体攻撃・防御に大別されるが、「戦士と魔法使い」といった具合に、役割が明確に分かれているわけではない。また、ゲームを通して2人しかキャラクターが登場しないため、攻撃のバリエーションに乏しい点も否めない。そもそもゲームのメインは世界の探索で、バトルにそれほど重きが置かれているわけでもない。

では、なぜ本作はこうした味付けがなされているのだろうか。それは本作が「カップル向けのゲーム」だからだ。別のインタビュー(※2)でEmeric Thoa氏は「Co-opパートナーを迎えるためにデザインされたソロゲーム」だとコメントしている。もちろん、日本でもフランスでもアクションRPGを好むゲーマーの多くが男性であることは事実だ。一方で機会があれば、そうしたゲームを遊んでみたいと考える女性も少なくない。本作は、そうした層に向けて作られたゲームというわけだ。

このように考えれば、本作のバトルシステムでケイとユウの役割に明確な差異がないこともうなずける。男性だから攻撃、女性だからサポートといった役割では、違和感を感じるプレイヤーもいるだろう。バトルに重きが置かれていない点も同様で、インタビューでは「『リズムゲームの感覚』で、気持ちよく、ちょっとしたアクションができるようにしたかった」と語られている。つまり本作はちょっとした息抜きや、会話のきっかけになることを意図してデザインされているのだ。

▲探索シーン

▲ネスト内

カップル向けのゲームであることは、本作のカメラ視点からもうかがえる。本作では惑星を探索するモードと、ネスト内で探索の準備を行うモードを繰り返しながら進めていく。このうち探索シーンではカメラは2人の後方を追尾して移動する。これに対してネスト内では、カメラは自由に移動できる一人称視点となり、船内でイチャつく2人の姿を見守ることになる。この時、プレイヤーは何をしているのだろうか。このカメラは誰が動かしているのだろうか。初めてプレイしたとき、この点が気になった。

ただし、本作が「Co-opパートナーを迎えるためにデザインされたソロゲーム」だと考えれば明白だ。このシーンを見ているのはカップルで、それぞれがそれぞれのキャラクターの視点でゲームに参加できるように、あえて一人称視点のカメラが選択されているのだ。逆に1人で遊んでいると、筆者と同じように違和感を感じるプレイヤーがいるかもしれない。中には「リア充爆発しろ」と声を上げたくなるシーンもあるだろう。そう言いたくなるほど、本作のイチャイチャぶりは際立っている。

もっとも、本作でケイとユウは2人だけの人生を送るために、すべてを投げ捨てて、未知の惑星に逃避行した。いわば無人島で未来永劫、2人だけで暮らすことを決意したようなものだ。現実世界でそうしたいと思う人がどれだけいるだろうか。これをてらいなく表現した点(そして1人だけでなく、カップルで遊べる配慮を加えた点)に本作のユニークさがある。こうした発想は、ちょっと日本からは生まれてこない。さまざまな文化圏から集めた素材を、フランス流の味付けで煮込んだ、かの地ならではのゲームだといえるだろう。

※1 Interview: 'Journey Meets Persona' - Haven Developer on Love, Inspiration, Turn Based Battles, and Life After Furi
https://www.pushsquare.com/news/2020/09/interview_journey_meets_persona_-_haven_developer_on_love_inspiration_turn_based_battles_and_life_after_furi
※2 Haven Interview – A Game All About Love and Exploration, From the Makers of Furi
https://wccftech.com/haven-interview-a-game-all-about-love-and-exploration-from-the-makers-of-furi/

Metacriticスコア:73
主な受賞歴:IGF2021 Excellence in Narrative ノミネート、Pégases 2021 ベストキャラクター&ベストインディーゲームなど

Steam『Haven』販売サイト
https://store.steampowered.com/app/983970/Haven/
『Haven』公式サイト
https://www.thegamebakers.com/haven/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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